2021年06月11日
トリーター:伊藤

ヒメアカイソガニ変態成功


正真正銘、幼生から育て上げた稚蟹


ゾエア幼生。生まれてしばらくはこんな形。


メガロパ幼生。ゾエアと稚蟹の間。ここまでくればあと一息。

みなさまこんにちは。
前回の日誌( 2021/04/11 ウグイと戯れ、謎に迫る )で、6年間担当したワムシの培養を卒業したと書いたばかりです。
それからわずか2か月後… 再び担当することになりました。
なかなかトリッキー、人生何があるか分かりませんね。

それとちょっと関連しますが、異動先の部署では、小さな甲殻類を育てあげる挑戦に熱が入っており、私も微力ながらこれに加わっています。
カニ好きの端くれとして、これまでも何度か育成に挑戦してはいるのですが、どうもうまくいきませんでした。これまでは小さなビーカーなどに幼生とワムシを入れて、毎日水を手作業で交換する方法でしたが、3回目くらいの脱皮後にバタバタと死なせてしまうことがほとんどでした。
それが今回、あっさりと成功したのでした。

ヒメアカイソガニ

一般の方でこれを知る方はかなりの通だといえます。
江の島では長らく南側のただ1地点でのみ見られる珍種でした。「居心地」をかなり選ぶ種で、やみくもに探しても見つからないツワモノだったのですが、本種に惚れ込みここ10年「ヒメアカいないかな~」という目線で島へ行くたび探し続けた結果、島内に広く分布することが分かってきました。

さて、育て上げた方法なのですが、現在「深海I」でタギリカクレエビの幼生を育成展示している装置と同じものを用いました。私は勝手に「筒っぽ」と呼んでいます。
聞けば、部署で先輩にあたる西川さんと八巻さんが、海外の水族館の技術を参考に、筒の長さや水流を創意工夫したものだそう。知識では知っていた「アップウェリング式」というのに似ていると思いました。幼生の「部屋」部分の底がネットになっているのですが、ここからの水の入りやすさが絶妙です。うまく水流を調整すると、「部屋」の底の方をほわほわっと新鮮な水が洗いながらも、中に入れたワムシは長時間滞留する状態を作れます。

この装置による幼生の生残率は、水産試験場など増殖のプロが手掛ける場合ほど高くないのですが、メンテの簡単さは特筆ものです。一日数回、ちょいちょいとワムシを入れて、週に1回大掃除するだけ。これまでホウキでお掃除していた人がルン〇を手にした感じでしょうか? 先輩担当者たちはタギリカクレエビで実感済み。私はそれを聞いて、タギリを一緒に手掛けながらも、独自に試してみようと思い立ち、第一弾がヒメアカイソガニだったわけです。


ちなみに大人(成体)はこんな感じ。

今回は展示の予定はないですが、この調子で、これまであと一歩で育て上げられなかったエビやカニを、淡々と育てていけたらと思います。

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