2021年06月12日
トリーター:石川

2021/06/12 巣箱

“えのすい”で飼育しているフンボルトペンギンは、野生では岩の隙間やサボテンや植物の根っこの隙間などに巣を作っているようです。
南アメリカの太平洋沿岸にフンボルトペンギンが生息しているのに対して、大西洋側には同属のマゼランペンギンが生息しています。マゼランペンギンの巣はグアノと呼ばれる土壌に、自ら穴を掘ったり、他の生物が使用した穴を利用して巣にしているようです。平らで広大な大地に穴がボコボコあいているイメージです。

実はこのグアノは、ペンギンなど水鳥の排せつ物やら彼らの先祖たちが土となった、いわば何万年以上も代々で使用してきている土壌なのです。足で穴を掘るのですが穴が掘りやすい質感のようです。
実は太平洋側のフンボルトペンギンもかつては同じような大地があって、そこに巣を作って住んでいたそうです。
このグアノは作物を育てる土として大変優れていて、人間は太平洋側のフンボルトペンギンの大地を根こそぎ堀つくして持って行ってしまったそうです。
代々受け継がれてきた大地は荒地となってしまい、同じような穴状の環境を探して現在の営巣場所を見出したのでしょう。

太平洋側のフンボルトペンギンは今でも警戒心が強く、人を見ると巣穴から出てこないか、巣へ戻らないそうです。大西洋側のマゼランペンギンは人が侵入してくると近寄って来て突きに来るそうです。フンボルトペンギンはいまだに人への嫌悪は消えていないのかもしれませんね。

さて、“えのすい”で使用している巣箱も代々使用している、とても年季が入った巣箱なんです。さすがに何万年というわけではないですが・・・。
4月からペンギンの班長に新たに就任したT氏と巣箱の話をしていたら、それだけでトリーター日誌になるのでは?ということで、このトリーター日誌になりました。
今いるペンギンたちのほとんどがあの四角い巣箱で育ってきました、私が“えのすい”でアルバイトを始めた時から36年ほど経つのですが、私より先輩の巣箱なんです。
旧江の島水族館は3館に分かれていて、3号館の海の動物園、旧名は海獣(かいじゅう)動物園!。この施設でアシカショー用の海側に面した観覧スタンド(約300人収容)から1200人収容のシートピアステージの新装に合わせて、ペンギン舎の擬岩収納型巣箱として制作されたものなのです。

材質はFRPでペンギンが傷ついたり、ついばんだりしないように表も裏も角も研磨してあります。
水切りが良いように底板には塩化ビニールの板が使われていて水抜き用の穴が開いているといったものです。フンボルトペンギンは体長(くちばしを伸ばした状態の先端から尾羽の先まで)が70㎝くらいあって、立ったフンボルトペンギンの雄(雄の方が平均すると少しだけ大きい)のくちばしが少し出る程度の高さで上部はメンテナンスしやすいように開口しています。

ただの箱のように見えますが、ペンギンたちはお気に入りなようすで、巣箱を置くと、こぞって覗きにやってきます。おじいさんおばあさんの代からこの巣箱で子育てをしているペンギンもいます。

中に使用する巣材はその時代時代で試行錯誤しました。
最初は巣材として竹ボウキを20~30cmに切ったものを自らペンギンに運ばせて巣を作らせる方法でした。衛生的にも、卵の安定にもあまりよくなくて、次に冷凍ミカンが入っているような・・・最近の方は駅の売店で冷凍ミカンを買って電車で食べるなんてあまりしないですかね。今もホームの売店で夏売っているのかな?・・・赤いネット状の袋を二重にして中へ、発泡スチロールでできた緩衝材を詰めて座布団を作り、たこ糸でザルに止めて、水はけがよいように木枠で底上げし、床へ直接接地しないように作っていました。(このザルもまだバックヤードでは現役で使用しています。)

その後現在の人工芝を使った形式に変え、親がまたいで通れるが、卵が落ちないように、ヒナが出ていかないように角材のゲートをはめ込んだものになっています。
シンプルだけれども親2羽と、最大でヒナが2羽を育てる広さがあります。

また、巣箱を置く場所は適当に見えてとても重要です。
位置と向き、隣の住人との距離はヒナの命にかかわります。
卵を抱いているときはまだそうでもありませんが、ヒナになると鳴き声がします。こうなるとヒナ好き?なペンギンたちはちょこちょこ覗きに来るのです。

親にとってはストレスです。慣れている親はまだよいですが、子育て経験の少ない親は他個体からヒナや卵、巣や縄張りを守ることに集中するあまり、卵を割ってしまったり、ヒナを踏んでしまったりすることもあるのです。このため子育てが始まると巣の周りのガードをこちらでも強化して、子育てしている親への精神的なストレスを軽減するなど、その時の状況によっていろいろと工夫します。

世代や時代を超えて使用できる巣箱を作っていただいた業者の方へも感謝です。
職人さんの丁寧さは巣だった雛の数が証明しているでしょう。
そして今回巣立ったヒナの中に、新しい巣箱で育ったヒナがいます。新しいといっても今からもう7年くらいたちますが、今までの巣箱はとても重かったのですが巣内の大きさはさほど変わらないのですが、だいぶ軽く作ってあります。こちらの巣箱でも今回2番(つがい)2羽のヒナが初めて育っています。

物も人も、ペンギンも世代交代していく中で、その時代、環境、ペンギン、人、物その時にかかわったすべてに想いがあふれています。
飼育技術を今以上に発揮させてくれる「物」そしてそれらの技巧や方法は、時代に合った「カタチ」で、ぜひ後世へ受け継いでいきたいと思います。

ペンギン・アザラシ

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