2021年07月01日
トリーター:八巻

トリノアシ再生する

写真1 トリノアシ写真1 トリノアシ

みなさんこんにちは! 八巻です。

再生といえば、昔、学校の生物の授業で出てきたイモリの腕やプラナリア、小さいころ捕まえたトカゲのしっぽが思い浮かびますね。私たち哺乳類は怪我をした時に傷口が治る程度ですから、失った器官が元に戻る再生とは本当にすごい能力です。

以前、私もサツマハオリムシの再生と再分化の研究をおこなっていたことがありました。外見が元に戻る前に体の中から失った器官ができていくようすを組織切片などを用いて観察してきましたが、再生は知れば知るほど複雑で、かつ興味深い現象です(サツマハオリムシの再生についての論文:Miyamoto, N., Shinozaki, A. and Fujiwara, Y. Segment Regeneration in the Vestimentiferan Tubeworm, Lemellibrachia satsuma. Zoological Science 31: 535–541)。

サツマハオリムシだけでなく、海の無脊椎動物の多くは再生能力を持っています。体の一部を犠牲にして本体を守るという戦略はしばしば見られます。例えばカニやタコは、脚や腕がちぎれてしまってもまた生えてきます。棘皮動物のウミシダなどは、少し刺激を受けると、すぐに腕を自切してしまいます。

タイトルにある花のような姿のトリノアシ(写真1)はウミユリのなかまで、ウミシダの祖先にあたるような原始的な生物です。
やはりトリノアシも刺激に弱く、加えて特別な刺激が無くても、飼育を続けているといずれ花びらのような腕の部分を落としてしまい、茎のような柄の部分だけになってしまいます。“柄”だけになってしまっても、もう一度腕が生えてくるようで、実際に江の島沖の海底でも明らかに柄だけになってから腕が生えてきている途中と思われるトリノアシを見たことがあります。

動きが少なく地味ですが、トリノアシなどウミユリのなかまは深海生物の代表格ともいえるので、しっかりと飼育できる技術を確立したい種のひとつです。前述の通り長期飼育がとても難しいのですが、うまく飼えているかどうかの指標のひとつが、再生するかどうかです。再生できるということは生物の状態が良い証といえるからです。

トリノアシは先日の日誌( 2021/05/27 沿岸水槽の展示変更 )でもふれた水中ドローンメーカーの FullDepth さんとの協力で作っている江の島沖の深場水槽の主役生物で、江の島沖深場で見られるトリノアシの群生を再現したものです( 2020/09/01 幻のコトクラゲがいた! 新江ノ島水族館×FullDepth深海探査共同プロジェクト参照)。
今回、そのトリノアシが数か月前に落としてしまった腕を再生していることに気が付いたのです(写真2)! 確かに小さな腕が切れた部分から生えてきています(写真3赤丸部)。


写真2 江の島の深場水槽のトリノアシ


写真3 腕を再生するトリノアシ

調べてみると、以前にも杉村トリーターがトリノアシの再生を喜ぶ記事を書いていました( 2018/02/09 トリノアシ )。やはりトリノアシの再生はみな嬉しいようですね(笑)

現在トリノアシを展示している水槽は湧昇流を作ることでプランクトン食のトリノアシやテヅルモヅルの腕をきれいに開かせ、見た目をよくすると同時に生物の摂餌状況も改善しようという作戦で改修したところでしたが、作戦は成功しているように思えます。
今後も継続して見守っていきます。

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