2021年12月13日
トリーター:山本

針金虫のおしごと

(※今回の日誌はにょろにょろ系です!苦手な方はそっとページを閉じた方がいいかも…)

突然ですが、みなさんはハリガネムシという生き物を知っていますか?
カマキリなどに寄生するあいつです。
私は小学生の頃にこの生物について本で読み「なんてすごい生き物なんだ…!」とずっと憧れを持っていたのですが、この度なんと、念願かなってハリガネムシをゲットすることができたのです。
展示している訳でもなく、今のところする予定もないため恐縮なのですが、面白い生き物なのでぜひぜひ紹介させてください。

この種に関して、カマキリのお尻から出てくる映像なんかを見たことがある方も多いのではないでしょうか。実際やってみた方もいるかもしれませんね。私もそれをどうしても生で見てみたかったので、ここ数ヶ月夜な夜なライトに集まるカマキリを探して、何度もトライしていたのですが不発続き…悲しみに暮れていました。
しかし!
とある休日に川でガサガサ(魚とり)をしていたら、友だちの網に謎の線形の物体が…あれ、なんか動いてる…これはまさか!そう、入ったのです。ハリガネムシが。まさかカマキリを経由せずに、直接入手するなんて…大興奮です!!…それが私とハリガネムシの運命の出会いでした。

ハリガネムシは、カマドウマやカマキリなどに寄生(北海道では主にゴミムシに寄生するそうです)し体内で成長した後、その宿主(寄生された側)を操作して川などに落とし、その後すぐに宿主から脱出します。
その後の流れはこんな感じです。

成熟したオスとメスが水中で出会い、交尾後に卵を産む

数ヶ月で卵が孵(ふ)化し、生まれたお子は水生昆虫などに寄生する

宿主の羽化のタイミングで陸上に進出し、それらがなんやかんやでカマドウマやカマキリなどに食べられる

食べられた先の体中で成長

川に飛び込ませて水中に脱出し、産卵…(繰り返し)
という生活史を持つそうです。…すごくないですか???こんなに宿主頼りなのに、水中と陸上をダイナミックに移動して生活史を回しているんです。

捕獲したハリガネムシは、家に持ち帰って水槽の中でしばらく観察していました。すると、数日後水槽に沈めていたオブジェにこんなものが…。

これは卵!生んだのか…。無精卵の可能性もあるのかな?もしかしたら孵化するかもしれない!と思い、別の容器に入れてそっと置いておきます。すると、何日かした時、卵の色がちょっと黒ずんでおりました。不思議に思い、目を凝らしてよーく観察してみると…小さい棒状の生き物が水槽内を泳いでいます。お子が誕生したようです(つまり、本個体は宿主から水中に脱出した後、交尾後に我々に捕獲されたという事ですね)!

顕微鏡で観察してみると、こんな感じでした。なるほど、これが水生昆虫に寄生するんですねー。もしかしたら生活史回せるのかも…!と、思ったのですが、その後のステージ(水生昆虫やカマキリなど)を都合よく準備することができず…。残念ながら、失敗に終わってしまいました。でも今回、ただネットで調べるだけではわからない、たくさんの事をハリガネムシに教えてもらいました。これを糧に、いつかまたチャレンジしてみたいと思います。

ハリガネムシを調べているうちに、面白い話を見つけました。とある研究で、ハリガネムシが生態系で果たしている、重要な役割が判明したそうです。その研究によると、ハリガネムシに寄生されて意図せず川に落ちていく昆虫は、川魚たちの餌として、年間で見ると大きな割合を占めているらしいのです。これって結構重要で、もしこれらの昆虫が急にいなくなったら、川魚たちは代わりにその水域の水生昆虫を食べるようになります。この時、藻類や落葉を餌とする水生昆虫類が減ると、エサとなるはずだった藻類が増え、落葉の分解速度が減少し、現場の環境がガラッと変わっていってしまいます…。なるほど…。
このように、ハリガネムシは、森林と河川という異なる生態系のつながりを支える重要な役割を果たしているのです。これがハリガネムシの「おしごと」の一部。意図せず水中に落とされる昆虫には気の毒ですが、そうやって絶妙なバランスで「生態系」って成り立っているんですね。不意に誰かが欠けると一気に崩れてしまう。なんか感動です。

私が知らないだけで、どんな生き物も、生態系における「おしごと」があるようです。この世には星の数ほどの生き物が関わり合いながら暮らしているんですね。
そんな壮大な事を考えさせてくれたハリガネムシは、やはり私にとって魅力的な生き物です。
いつか展示できたらいいなー。

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