2022年02月01日
トリーター:伊藤

浦島太郎なチビクモヒトデ

「その手があったか!気づかなかった!」
足立さん担当の2月テーマ水槽を見て、心の中で叫んでしまいました。
普段なら展示対象として見なさないような、でも実は魅力的な極小生物たちを、チョコにちなんで展示とは…。
このコンセプト、いつかどこかで「参考にしよう」と思ったのでした。
せっかくなので 1種クローズアップしてみます。

ギザギザがかっこいい!チビクモヒトデギザギザがかっこいい!チビクモヒトデ

チビクモヒトデ。
少なくともここ10年以上にわたり、当館で最も多く飼育されている?ヒトデです。
こちら、展示生物としてではなく、わき役中のわき役として大水槽の岩肌に無数にすみ着いているのです。本種は幼生期(オフィオプルテウス)を経ずに、成体が分裂して増えることができるので、おそらく大水槽内の大部分は同じ遺伝子を持つ「分身」なのかなと思っています。

コロナ禍以前におこなっていた「フィンズ」というダイビングショーを覚えておられますか?
現状だと難しい、司会役とお客さまが対面して会話する、楽しいショーでした。
お客さまから「ヒトデが見たい」とリクエストをいただいた時、奥の手でチビクモヒトデを映して「おおっ!」というのをやっていました。懐かしいです。
テーマ水槽では、当時のフィンズで映された時さながらの「岩肌にびっしり感」を間近でご体験いただけます。

さて、本種に関してはもう一つ、興味深い一面があります。
10年くらい前まで、アオウミガメを大水槽に泳がせるというのを定期的に実施していました。
カメを導入してしばらくしたある日、甲らのすき間から何かがピロピロと見えていたのです。
よく見るとチビクモヒトデが潜り込んでいます。恐らく、カメが岩のそばで寝ている時に移動してきたものと想像されたのでした。1匹や2匹ではありません。いくら岩の近くで寝ているカメでも、岩との接触部位はそんなにないように思うのです。そんなに素早そうなヒトデには見えませんし、かなり急いで移動したり、岩から飛び移ったりするのでしょうか。

これを水槽内だけの珍事として片づけることもできますが、もし自然界でも同じようなことが起こっているとしたらどうでしょう?
チビクモヒトデは分布が広い種として知られています。
アジア大陸や日本が面する西部太平洋だけでなく、アメリカ大陸の沿岸にまで及んでいます。
カニなどでも西部太平洋に広く分布する種がいますが、これらの多くはハワイやポリネシアあたりが分布の東限になっています。おそらくは幼生時代に海流で運ばれて分布拡大しており、そのあたりが海流で運んでもらえる終点なのかなと思うわけですが、我らがチビクモヒトデはそれを超えて分布していることになります。
ここからは妄想甚(はなは)だしいので話半分で読んでほしいのですが、ウミガメに乗って遠くまで運ばれてたり?と思っています。少なくともアカウミガメでは東西太平洋を横断して回遊することが分かっていますし、非力で小さく泳げないチビクモヒトデが、ウミガメの背中に乗って長距離移動を成し遂げているのかも!と考えるとワクワクします。

最も現代では、船やそのバラスト水とともに多くの生物が運ばれることが知られていますから、そっちの方がありえそうですが。人が船を発明する前のことは誰にも分かりません。ウミガメの回遊や、ちょっと前にニュースになった軽石の漂流が、「硬いものに付着する生物」の長距離移動に手を貸している可能性がありそうだな~、みたいなことを、足立さんの力作をお手伝いしながら考えていたのでした。

大水槽にウミガメがいたときのようす大水槽にウミガメがいたときのようす

テーマ水槽

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