2022年03月31日
トリーター:鈴木

水族館の飼育員を目指すみなさまへ

みなさんこんにちは、鈴木です。
気がつけば暖かくなり、川沿いに咲く桜が満開になっていました。
気付けば3月も終わり、明日からは新年度がはじまりますね。

さて、この仕事をしていると、飼育員(トリーター)になるためにはどうすればよいか?飼育員はどんな仕事をしてるのか?などと聞かれることがしばしばあります。
私は今まで下は小学生、上は大学生、社会人まで、さまざまな年代の方に飼育員になるためのお話をしてきましたが、どんな年代の方でも夢の話をする時は、必ず目を輝かせて話をしてくれて、こっちが初心に帰らせてもらい、たくさんの力をもらいます。

それはさておき、そもそも飼育員の前に、水族館にはどんな役割があってどんな仕事をしているのか?と聞かれたら、おそらく漠然と生き物の飼育をするところ、などしか思いつかない方がほとんどだと思います。
一般的にいわれる水族館の役割を並べるとこんな感じです。
「飼育(保存)、展示、(社会)教育、調査研究、レクリエーション(娯楽・レジャー)」
単語を並べると難しく聞こえますが、この中で一番大切なことは、お客さま(人)を楽しませること(レクリエーション)で、実はこの、楽しんでもらう、ということに水族館の役割のすべてが集約されています。
水族館に来てくださったお客さまに楽しんでもらうためにはどうするか・・、生き物を健康に飼う(飼育)のはもちろん、オリジナリティのある情報(研究)をもって、最大限に生物の魅力を引き出すように見せる(展示)必要があります。
そうやって楽しんでもらうことができれば、それはすでに学び(教育)になり、興味を持った(好きになった)生物やその環境は他人ごとではなくなります(自然保護)。
楽しいと感じた時、人はすでにそれを学んでいるといいます。小さいころの遊びを習わないでできるようになるのは楽しんでいるからです。
さらに自然保護においては“知らない”ということが一番の天敵です。
そして、付け加えると、お客さまを感動させて(興奮させて)、ちょっと学べるものをつくる、そんな仕事をしているのが水族館です。
答えを全て教えられるとつまらなくなるのと同じで、この「ちょっと」が重要だと思います
つまり興味のきっかけをつくるのが水族館の役割です。

それでは、そんな水族館で働く飼育員はどんな仕事をしているでしょうか。
飼育員の仕事は本当にいろいろあります。
生き物の世話(飼育)はもちろん、生物を詳しく研究したり、展示のための工作や、解説パネルの文章や絵を書いたり、ショーで音楽に合わせて動いたり泳いだり、新たな展示の企画をしたり、学校などに出向き、子どもたちにお話したり・・・ などなど、飼育員の業務は多岐にわたり、さまざまなスキルが求められます。とにかく何でもやらなければいけません。
難しそうに聞こえますが、裏を返せばなんでもできる仕事ですし、さらにどんなこと(強み、技術)も無駄にならない仕事です。
国語、算数、理科、社会、英語、美術、家庭科、技術、音楽、体育、全ての知識・教養・スキルは水族館の飼育員の業務に通じます。
こんなにも多様な分野を無限に組み合わせられる仕事を私は知りません。
これこそが、水族館の飼育員という仕事の私が思う一番の魅力だと思います。

ただ、何でもやらなければならないからといって全部ができる超人になる必要はありません。それぞれ得手不得手があり、得意なことが違うメンバーがそれぞれの分野で力を発揮して一つのチームをつくっています。
趣味や好きなものどんな些細なことでも、みな何かしらの強みが必ずあり、それを活かして誰でも主役になれる仕事です。
ちなみに、先述の通りこれら全ての仕事を飼育員が担う水族館も多いですが、“えのすい”では、飼育員(トリーター)もあくまで水族館の一部で、他にもたくさんの分野のスペシャルリストが揃っています。
いつかトリーター以外のスペシャリストたちもご紹介したいですね(まだまだ“えのすい”にはすごい人がたくさんいますよ)

そして、これら飼育員の仕事の目的はもちろんお客さまに楽しんでもらうことです。
よく水族館の飼育員の職種は、生き物を飼育したり研究したりするので、飼育業や専門業、研究業などと思われがちですが、生き物を通してお客さま(人)と関わる(話す)仕事、つまりサービス業です。
研究、飼育、採集・・、飼育員のすべての仕事は、ショーを含む展示等に還元して、お客さま(人)に伝えて初めて意味のあるものになります。
もし飼育員に向いている人は?と聞かれて一つ答えるとしたら「人が好きな人」と答えますね。
生き物だけが好きならば趣味で飼えばいいですし、研究が好きならば研究職に就けばいいです。
我々の仕事である飼育員は、人と関わる仕事です。

すみません、夜書き物をすると感情的になるとよくいいますが、おそらく今そうなっていると思います(笑)
すみません、もう少しお付き合いください・・。

では飼育員をより楽しむためにはどうするかを少し。
この仕事は、どんな技術、経験も無駄にはならないといいましたが、やはり他が持っていないスキルは大きな武器になります。
どんな分野でも自分だけの強み(武器)を持っているととても楽しいだけでなく、自信にも繋がります。
では、その経験やスキルはどうやって学べるかというと、僕は回り道だと思います。
助走を長く取ればとるほど高く大きく飛べるのと同じで、時には遠回りに感じるかもしれないけれど、回り道をして他が持っていない分野の経験を積めば積むほど、伸びしろ(助走)が増え、より高い壁を超えられるようになるはずです。
私が過去に就職の相談を受けた知人のひとりは、話すのが得意ではなく大学卒業後飼育員への就職が3年間決まりませんでしたが、その間3年間続けたあるテーマパークの接客のアルバイトのおかげで、誰にも負けないホスピタリティや人と話す力を身につけ、その年にオープンした水族館に就職が決まり、いきなり解説ショーや教育普及の分野のリーダーに抜擢されました。
また、同様に本当は卒業後水族館の飼育員になりたかったけれど、家庭の事情で介護の仕事に5年以上就いた後、やはり諦めきれず飼育員を目指した知人は、畑違いの職種からの転職をハンデと感じていたようですが、バリアフリーを重視する公立の水族館にすぐに就職が決まりました。
これらは回り道をしたからこそ、他の飼育員にない知識経験を身につけ、それがかけがえのない自分だけの大きなアドバンテージ(武器)になった実際の話です。
最短ルートでは壁の下には行けても壁を超えることはなかなかできません。
回り道は往々にして辛いものですが、諦めずにたくさんの助走をとって、壁を超えて新たな景色が広がった時、心から楽しいと思える瞬間がくるはずです。
そして、同時に、遠回りだと思っていたものは自身にとっての最善で最短のルートに変わると思います。

ちょっと小難しく話してしまいましたが、おそらく飼育員を目指すみなさんの周りには、自身の武器になりうるものがそこら中にあると思います。
今自分がやっているアルバイトでも趣味でもなんでもよいので、飼育員の仕事に生かせることを見つけてみてください。
接客業は人、販売業は陳列(展示)を日々学んでいるのと同じです。
売り場のポップを書くことも立派な解説パネルづくりです。
体力は最も必要なスキルのうちなので、力仕事や運動系の部活も十分活かせます。これは全て何も無駄にならないという、飼育員という仕事の魅力があるからこそです。

長々と書いてしまいましたが、最後に、水族館の飼育員を目指すみなさんは、水族館で働くことだけが夢(目標)でしょうか?
違いますよね?
おそらく、自分が目指す飼育員像を求めてどんどん成長して、キラキラと輝く飼育員としてバリバリ活躍する、というのが目標だと思います。
その目標を叶えるためには、自分の専門だけの知識、経験だけでは正直足りません。
日本をけん引する飼育員はみな、さまざまな場所でさまざまな経験を積んでいる方々です。
なのでみなさん、回り道(遠回り)を恐れず、いろいろな経験をしてください。
諦めなければ、良い出会いがあり、運がまわり、必ず飼育員になれるはずです。
これから一緒に仕事をできることを心から楽しみにしています。
みなさんが思う何百倍もこの仕事は楽しいですので、どうか安心して目指してくださいね。
お待ちしております。

実は私も現在、自身の新たな壁を超えるため回り道をさせてもらい、助走をとっています。この壁を超えた時どんな景色が広がるか、本当に楽しみです。
久しぶりに長くなってしまいましたが、今まで私の日誌にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
またこの場でお会いできる日を楽しみにしております!

RSS