水族館ではほとんどの生物を水槽で飼育していますが、その環境は海と比べると閉鎖的で容量も小さく水の入れ替わりが少ないです。そうなると、病気が発生しやすくなります。
ここ数年のウイルスの拡大でみなさんも換気を意識していると思いますが、私たちはそれと同じように水槽の換水も気にしています。病原菌は水がよどんだ場所に発生するので、きちんと換水されていないと病気になってしまいますからね。
水族館には菌やウイルス、寄生虫などさまざまな病気のもとが潜んでいます。
今回はその中の寄生虫に分類されるベネデニアについてのお話です。
「ベネデニア」と聞いてどんな寄生虫か想像できる人は少ないでしょう。でも水族館に来てしっかりと魚を観察する人の視界には、確実に入っている、と言ってもよいほど蔓延している寄生虫で、飼育員の間では、「ベネ」と略されるほどです。
寄生場所は魚の体表でヒレや眼にも寄生し、大きさは最大で 1cmほどです。
見えやすい場所に大量に寄生するので見つけやすいのですが、なぜみなさんが気付けないのか、それは「ベネ」が透明だからです。大量に寄生すると、そこがくすんだような色に見えるので気付くことができます。
実は画像のイトヒキアジにも「ベネ」が寄生しています。
わかりますか?
これを放置していると寄生された部分がかゆいイトヒキアジは、水槽のレイアウトやガラスに体をこすりつけます。その時に体に傷がつくと、その部分から菌が入って死んでしまうこともあるんです。そこで水族館では、魚に長生きしてもらうために治療をします。
治療方法は簡単で、海水で飼育しているイトヒキアジを淡水に数分入れてあげるだけです。そうすると体についている「ベネ」が死んで体表からポロポロ落ちていきます。
死ぬと白くなるので、それを採取して顕微鏡でのぞくと「ベネ」を観察することができます。これが体にたくさん寄生しているなんて想像しただけでもかゆいですよね。
展示している魚が「ベネ」によって死んでしまう事例も少なくないので、私はベネデニアを水槽で発生させなくする運動をしています。
具体的には、水槽の換水率をあげたり、配管を掃除したり、照明や砂、掃除の仕方を変更したりしています。
まだ完全にはいなくなっていませんがいつか水槽で病気がなくなるといいなと思って取り組んでいます。ただ、見方を変えれば寄生虫も展示生物です。今度水族館に来た時は、眼を凝らして魚のヒレや眼を見てみてください。「ベネデニア」に気付けるかもしれません。