太陽の周りを、地球やほかの惑星がぐるぐる回っている、「太陽系」の存在を知り、人間の体は、分子でできていて、分子は原子でできていて、原子核の周りを電子がぐるぐる回っているのが原子だよ、と習った時、宇宙の中にいる自分の体の中にも、宇宙があると思った。
水は分子でできていることを習った日、蛇口から出る水を飲みながら、なんだか口の中がざらざらする気がした。
無脊椎動物とは、背骨のない生き物のことです、という知識は、中学のころから持っていたはずだが、字面で知っていただけだった。
ずっと動物は好きだったが、そこそこの大きさの哺乳類や、鳥や、蝶など、よく見えるものしか、見えていなかった。
きっかけが何だったか、きっかけになるようなことがあったのかどうかも覚えていないが、ここ何十年、小さな海産無脊椎動物を見ることが、ただただ面白くてしかたがない。
広い視野で大きな世界を見ることも素敵なことだが、狭い視野で小さな世界をのぞいてみると、そこにも限りのない世界が広がっているのだ、本当に。
ただ石がゴロゴロあるだけだと思っていたのが、その石ひとつひとつに小さな無脊椎動物が折り重なって付着していて、まさに、生きている石だと気づいた時の、「うわっ」という快感。
宇宙や、水分子のことを知った時の驚きに似た、心の泡立ちが、今も更新され続けている。
世界は命に満ちている、その感動を伝えたくて、この展示をお届けします。
めくるめく小さな無脊椎動物の世界から、今回はコケムシをご紹介します。
コケムシは、水中の岩や貝殻や海藻などに付着し、一見コケのようにも見える動物です。
実は、小さな個虫が集まった群体で、各個虫は、触手冠という、水中の微生物などを摂餌するための器官を備えた虫体と、それを取り囲む、キチン質や石灰質でできた個室(虫室)とから構成されています。
地味といえば地味な生き物ではありますが、日本近海だけでも、おそらく 1000種類以上が棲息していると考えられ、世界には約 8000種が既に報告されています。
見えていないだけ、知らないだけなのですね。