私とエドワジエラ・イクタルリが出会ったのは、大学3年の時です。
それまでは目に見えないエドワジエラ・イクタルリの存在を知る由もありませんでした。これはこの日誌を読んでいる今のみなさんも同じだと思います。
ですが、一度エドワジエラ・イクタルリの世界を知った途端に自分の知る世界が何倍にも広がったように感じました。みなさんにはこの展示と日誌を通してエドワジエラ・イクタルリの世界の一部をご紹介します。
大学3年の時、先輩がおこなっている研究の見学に行きました。その現場では、たくさんのアユを解剖して綿棒で腎臓を擦り、チューブへ保存していました。
これだけでは、なぜこの作業をしているのかさっぱりわかりませんでしたが、詳しく話を聞くと、アユが菌に感染しているか確認しているとのことでした。この時に出会ったのがエドワジエラ・イクタルリという菌です。この菌は 0.75× 1.5- 2.5μmの短くて細長い形をしています。
ものすごーく小さいので、肉眼ではその単体の姿を確認することができませんが、梅雨明けの暖かい季節になると河川で増殖してアユの大量死を引き起こす菌です。
さらに、アユだけでなく淡水魚に広く感染するので、生態系の破壊の観点からも恐れられている菌でもあります。私とエドワジエラ・イクタルリが初めて対面したのは、アユから分離されたわずかなイクタルリを培地と呼ばれる菌の栄養を含む寒天の上に白金耳で広げて数日間培養し、肉眼で見えるようになったときです。この培養したものがシャーレで展示しているエドワジエラ・イクタルリで、ぷくっと膨らんだ乳白色の粒は増殖したたくさんのエドワジエラ・イクタルリがまとまったものです。
見えないものが見えるようになった時、こんな世界があるのかと、こんな世界が自分の住む世界に無数にあるんだと思うとすごく胸が高鳴りました。その瞬間に私の世界は何倍にも広がったのです。
それから私の卒業研究は、アユに感染するエドワジエラ・イクタルリが河川のどこにいるのかというテーマになりました。大学時代の最後の1年間は、河川で肉眼では見えないエドワジエラ・イクタルリを探し回る生活でした。
楽しくもあり、辛くもあり、私はエドワジエラ・イクタルリとともに過ごした1年間を一生忘れることはないでしょう。
この展示では、それぞれの生物が持つ世界にこだわって、生きているエドワジエラ・イクタルリと感染していない元気なアユを準備しました。アユの天敵ともいえるエドワジエラ・イクタルリを同じ水槽で展示するのは勇気のいることでしたが、この 2種の関係性と自分の中の世界の広がりを感じていただければ嬉しいです。