2022年07月12日
トリーター:山本

ウラシマクラゲ科の新属新種 オトヒメクラゲ(乙姫水母)

みなさんこんにちは。
久しぶりにクラゲチームからの大ニュースです!
このたび、新江ノ島水族館と公益財団法人 黒潮生物研究所アクアワールド茨城県大洗水族館は、日本の各地でとある正体不明のクラゲを発見し、そのクラゲをウラシマクラゲ科に属する新属新種として記載しました。
本日より、クラゲサイエンスではそのクラゲの標本を展示しています。このクラゲが世に出るのはもちろん世界初!早速紹介していきましょう。

学名:Octorhopalona saltatrix
和名:オトヒメクラゲ(乙姫クラゲ)
分類:ヒドロ虫綱 花クラゲ目 ウラシマクラゲ科 オトヒメクラゲ属(新称)
丸っこくて、少しオレンジがかっています。かわいい系のクラゲでしょうか。

本種を記載した論文は、こちらから読んでいただくことができます(※無料ですよ!!)。ぜひご覧ください。
英語でばーっと難しそうなことが書いてありますが、ざっくりまとめると

・茨城県(大洗町)と神奈川県(江の島)と高知県(土佐清水市)で採集された正体不明のクラゲの標本を分類学的に精査(形態観察やDNA分析など)した結果、「ウラシマクラゲ科」に属する新属新種のクラゲであることが分かりました
・そのクラゲをオトヒメクラゲ(学名:Octorhopalona saltatrix)と名付けました
・本種の形態は、これまでのウラシマクラゲ科の定義(「記相 diagnosis」といいます)に当てはまらないため、ウラシマクラゲ科の定義を変更しました
・・・という内容になっています。

ウラシマクラゲ科といえば、昨年私たちが記載した「ワタボウシクラゲ」と同じ仲間ということですね(詳しくはこちら→[2021年6月15日 江の島産の新種「ワタボウシクラゲ」その2])。
今回オトヒメクラゲが記載されたことで、この世のウラシマクラゲ科に属するクラゲは 5種類となりました!
その 5種類のなかで、日本で出現するのはウラシマクラゲ、ワタボウシクラゲ、オトヒメクラゲの 3種類。

実は、江の島はその 3種類すべてが出現する唯一の場所です(※今後他の場所でも発見される可能性はあります!)。
これはつまり、今のところ江の島は「世界で一番ウラシマクラゲ科のクラゲを見ることができる場所」といっても過言ではありません。
これって結構すごいことで、江の島にとって「ウラシマクラゲ科」は特別なグループなのです。この 3種は繁殖が確立できていないため、今のところ採集頼りとなってしまうのですが・・・江の島での出現時期は被ります!
タイミングが合えば、いつかこの 3種を並べてクラゲサイエンスで展示したいものです。

和名の「オトヒメ」は、みなさまご存じ昔話の「浦島伝説」に登場する「乙姫」です。
ウラシマクラゲ科に属し、ウラシマクラゲよりも小型であるためこの名前を選びました。
伝えられている物語のように、長く愛されてほしいという思いも込めています。
学名(世界共通の名前)はOctorhopalona saltatrixで、属名のOctorhopalonaは「8本のこん棒」、種小名のsaltatrixは「踊り子」という意味です。 8本のこん棒とは、刺胞の塊がある本種の特徴的な触手の形を表しています。

これは裏話なのですが、学名を決める際はあーでもないこーでもないといくつか候補を考えます。
和名の由来にもなっているウラシマクラゲの属名がUrashimeaなので、オトヒメクラゲの学名は当然Otohimeaでしょう!!・・・と、みんなで思っていたのですが、なんとOtohimeaは既にほかの生き物の属名として使われていたのです!
属名が被るのはルールとしてダメなので、結構悩んで付けました。オトヒメエビやオトヒメコンニャクウオ、刺胞動物の中にはオトヒメノハナガサという種類もいて、やはり乙姫さまは日本人になじみ深いですよね。これからオトヒメクラゲも多くの方に知っていただければと思います。

実は、私が初めてこのクラゲと出会ったのは学生の頃(なんと7年前・・・!)。
汗ばむ夏、卒業研究のために友だちと江の島へ行き、磯でクラゲを採っていると、知らないクラゲが流れてきました。
「図鑑で見たことあるような、無いような・・・なんだこのクラゲ・・・」。当時クラゲの同定力はまだまだで(今もですが)、当然分からない種はたくさんいたのですが、1㎝ほどのサイズで図鑑に載っていないのは珍しいなーと、ちょっとわくわくしたことを覚えています。
このクラゲを初めて採集してから、きょうまでいろいろなことがありました。
研究者の方や水族館の方、このクラゲがつないでくれたたくさんのご縁があり、私にとってはとてもとても思い出深いクラゲです。
初めて見つけてから結構な時間が経ってしまいましたが、江の島で出会った特別なクラゲを「江の島」の名が付く水族館から世に発信できることに、とても感激しています。
筆頭著者である黒潮生物研究所の戸篠さんは、昨年「ワタボウシクラゲ」を記載したときにも一緒に動いてくださった私の師匠です。
今回のオトヒメクラゲの記載は、戸篠さんが中心に記載を進めてくださいました。また、著者の一人であるアクアワールド茨城県大洗水族館の齋藤さんは、あの頃まだ学生だった私に優しくこのクラゲについて教えてくださいました。
一人で種の記載をすることなんて私にはできません。関わってくださったすべての方々に感謝です。

本種の江の島での出現時期は主に春から夏にかけてなのですが、秋や冬に思いがけず出現することもあります。毎年それなりに出現していますので、そのうち生体を展示することができる・・・はず。
それまでは標本をじっくり観察していただき、楽しみにしておいていただけたら嬉しいです。論文の内容とか見てほしいポイントとかまだまだあるのですが、詳しく書いていると止まらなくなってしまうので、またの機会に!
とにかく、本日より世界初となるオトヒメクラゲの展示が始まりました!
場所はクラゲサイエンスのここ!

お見逃しの無いように!みなさん絶対見に来てくださいね。お待ちしています。

クラゲサイエンス

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