2022年08月19日
トリーター:杉村

オオグソクムシ属の新種の名前が「エノスイグソクムシ」に!!

2022年8月9日?、新江ノ島水族館に衝撃が走りました!!
なんと、以前に“えのすい”で飼育をしていたダイオウグゾクムシの中に新種が混じっていて、その個体の名前が、学名を「Bathynomus yucatanensis」とし、和名が「エノスイ・・・・グソクムシ」になりました。
なんと!新江ノ島水族館の愛称である “えのすい” が、生物の名前のついたんです。
深海生物担当者一同、びっくりです。

この始まりは、遡ることちょうど3年前の 2019年8月のことです。
一般のお客さまから質問が・・・ということで、たまたま対応したのが北田トリーター。すると、その質問者の方が実は今回論文を執筆された台湾の国立台南大学の黄銘志(ホァン ミィンチー)博士だったのです。

黄博士(右)と北田トリーター(左)黄博士(右)と北田トリーター(左)

黄博士は、自身が研究している台湾のオオグソクムシ属の研究の比較のために、当館で飼育していたメキシコ湾産のダイオウグソクムシについて調べたいとお話しをされ、冷凍で保管していた標本を1個体お持ち帰りいただきました。
その後、深海担当で博士とやりとりをし、どうやらお持ち帰りいただいた個体がダイオウグソクムシではなさそうだというお話をいただき、さらにもう1個体お送りすることにしました。
しかし、後からお送りした方の個体は “普通の” ダイオウグソクムシだということがわかりました。
さらに詳しく分析を進めた結果、メキシコ湾産のダイオウグソクムシには、Bathynomus giganteus (和名:ダイオウグソクムシ)の他に、形態的に遺伝的にも異なる種が混じっていることがわかったのです。
それが今回新種記載された「エノスイグソクムシ Bathynomus yucatanensis」になったということです。
ちなみに黄博士が調べていた台湾沖で採集された個体についても、Bathynomus kensleyi だと思っていたものが、実は別の種類の Bathynomus jamesi だったということも分かりました。
※記載論文は、国際雑誌「Journal of Natural History」に掲載されています。

学名は Bathynomus yucatanensis ですが、Bathynomus はオオグソクムシ属(属名)のことで、yucatanensis は種名で生息地ユカタン半島から由来して名付けられました。
※学名はラテン語で、属名+種名(二名法)で表記されます。

和名については、黄博士のご厚意で今回の新種の発見のきっかけとなった、新江ノ島水族館の愛称の“えのすい”をつけてくださいました。
生物の名前に水族館の名前がつくなんて、なんて凄いことなんだろう、そして少しでも今回のことに関わることができたことを、とても幸せに思います。

では、今「エノスイグソクムシ」が展示しているかということがみなさん、とても気になりますよね・・・
そういう深海生物担当の私もです。
え、担当なのに?!と思われますよね。
当然です!
私もそう思います!
ですが、実はエノスイグソクムシとダイオウグソクムシに形態的に違いはあるのですが、とても軽微で、我々でも、見て直ぐに「これがエノスイグソクムシです!」・・・とは、言えないほど似ているんですよ。
多くのダイオウグソクムシを見てきた立場からは、“たぶん”、“きっと”は言えるのですが、決定的なところでは、遺伝情報をみてみないと確定(種の同定)できません。

・・・ということで、現在はオオグソクムシ属の1種として掲示しています。
とても悩ましい・・・こんなことが!!
なので、少なくとも他に冷凍保存している個体については、遺伝子を調査するため、準備を進めています。

私も10数年にわたってダイオウグソクムシを飼育してきましたが、いくつか特徴的な体型の個体がいることは感じていたので、きっとその中には「エノスイグソクムシ」がいたかもしれませんね。
過去の資料などをまた探してみたいと思います。
わかり次第、また、トリーター日誌もしくは“えのすい”のホームページ内で報告したいと思っています。

最後になりますが、今回見つかったエノスイグソクムシのように、本来は別種であるが、外見上の区別がつかず、同一種としてされていた種のことを「隠蔽種(いんぺいしゅ)」と言います。
遺伝情報の解析技術によって、このような新種発見は、もっと増えてくることが考えられます。
ひょっとしたら、直ぐそばに実は新種!が隠れているかも・・・ですね。

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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