2023年03月07日
トリーター:唐亀

「ビーナ」のこと

「ビーナ」はマイペースで、ちょっとどんくさくて愛嬌のあるハナゴンドウでした。
空中にかかげた輪をくぐったり、頭でボートを押してガイドしたり、空中にある大きなボールを豪快に一回転してテールキックしたりと、ショーでも大活躍でした。

もともとハナゴンドウは頭がずんぐりと大きく、口のカーブが笑っているように見え、口を開ければ愛嬌たっぷりの表情になるうえ、歯が下顎の先に 3対程度しか生えていないというこずるい容姿をしています。
そんな中でも「ビーナ」は特に可愛らしい顔をしている、と私は思っています。

私が32年前に入社して最初に担当したのが「ビーナ」でした。同時にハナゴンドウの「ヨン」、コビレゴンドウの「ニイム」の 3頭セットで、師匠に現在ペンギンを担当されている石川さんと担当していました。

「ヨン」は当時、飼育下長寿記録を持つ高齢のハナゴンドウで、かなり白くなっていて体も大きく、動きもゆったりしていました。一方、「ビーナ」はまだまだ幼く、「ヨン」の横にちょこんとたたずむ感じ。「ニイム」は黒いしでかいし、迫力があるので目立ちますが、高齢の「ヨン」には一目置いているようでした。
「ヨン」や「ニイム」のお話は、またいつか機会があれば。

「ビーナ」にプッシングパトロール(イルカが吻先でトリーターの足の裏を押す種目)を教えようとしたことがありました。それ自体はそこそこできたのですが、「ビーナ」は吻先で押すのを嫌がりました。吻先がないので、口の尖った骨のある所に足を付けて押させるのですが、「ビーナ」が自分で額の部分に足の裏を移動させるのです。ハナゴンドウの額には骨は無く、柔らかいです。しかも、エコーロケーションに必要なメロンが入っているので、そこで押させるのは忍びなく、また吻先に戻すのですがすぐに額に戻そうとします。
それならそれでと、額に足の裏を付けて押させると、ハナゴンドウの額は少し斜めになっているので、足の裏が固定できずに滑ってずれてしまうのです。もしかしたらそれを狙ってわざとやっていたのかもしれません。

また、バンドウイルカが使っていたバスケットボールを奪い、口にくわえて沈めようと遊んでいた「ビーナ」。それまでは呼んでも来なかったくせに、突如ボールをくわえたまま顔を出しました。飽きてボールを渡す気になったのかと思いきや、ボールががっつり口にはまっており、引っ張っても容易に取れない状態になっていました。結構悪戦苦闘して外しましたが、あれは自分ではどうしようもなくなって、私の所に来たのかもしれません。

ドルフェリアの立ち上げの際、最初にアクアンの乗る泡を押すのはビーナでした。その後はオキゴンドウの「セーラ」や「ラッキー」と共に行動することが多くなりました。特に「セーラ」とはシンクロしていて、「セーラ」が機嫌を損ねると一緒になっていじけた「ふり」をしてました。
「ビーナ」が本当に機嫌を損ねたときには、ジャンプして腹を水面に叩きつけるベリービートを繰り返します。実は「ヨン」はこのベリービートを種目として持っていたのですが、「ビーナ」のベリービートはとてもきれいなのです。ただ、機嫌の悪いときだけに勝手におこなうので、なかなか強化ができませんでした。

朝にイルカショースタジアムに「ビーナ」や「ミュー」の顔を見に行くのですが、最近の「ビーナ」はかなり白くなりましたね。当時の「ヨン」と同じくらいに。
それもそのはず、「ビーナ」は旧江の島水族館にやってきて現在に至り、飼育年数は今年の 1月で35年になりました。実はビーナは私より先輩なのです。

ところで、「ビーナ」の名前は女神の名前が由来、ではなくトイ…

イルカショースタジアム

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