2023年09月09日
トリーター:山本

アオミノウミウシ(Glaucus atlanticus)の魅力

まるで空想の生き物のような、神秘的な姿をしているアオミノウミウシ。今年の8月、久しぶりに目の前の砂浜で採集することができたので、現在クラゲサイエンスで展示中です! みなさまもうご覧いただけましたか?
採集してからきょうで 23日経ち、大きさは3倍くらいになりました。3年前にも状態の良い個体をたくさん採集できたことがあり、その時は最長の個体で 41日間飼育をすることができましたので、今回ももうしばらく展示が続けられるんじゃないかなーと思っています・・・!
最初採れたときはどう飼育すればいいのか全く分かりませんでしたが、ここ数年の経験を通して本種の生態や飼い方のコツがわかってきたような気がしていますので、改めて日誌で紹介していきます。

分類: 軟体動物門 腹足綱 裸鰓目 アオミノウミウシ科
学名: Glaucus atlanticus

属名の「Glaucus」は、ギリシア神話の海神である「グラウコス」からきているそうです。神々しいその姿から命名されたのでしょうか、ぴったりの名前な気がします。
全然関係ないですが、昔小学生の頃に遊んでいたドラ〇エに出てくる某水系のモンスターはこれのことだったんだっていう個人的な発見がありました(アオミノとは全然似てません!笑)。

はじめて知ったときはびっくりしましたが、お腹を上にして浮かんでいるのが通常状態です。いつも逆さまなんて、ちょっと想像できないですね。どんな景色が見えるんでしょう。
「上が青で下が白」というこの体の配色は、「カウンターシェーディング」と呼ばれ、上下の捕食者(鳥や魚など)から見つかりにくくなっています。マイワシやサバ、イルカなどもおおまかに見れば同じ体色ですよね。

本種は世界中の暖かい海で生活し、風向きによって時折日本にも接岸します。
カツオノエボシやギンカクラゲ、カツオノカンムリなどの表層性の刺胞動物を捕食し、そこから得た刺胞を未発射のまま背中にあるミノ(の中にある刺胞嚢)に貯め、防御用として使うことができます。つまり、アオミノウミウシ自体を触ってもクラゲ由来の毒を食らってしまう可能性があるということです。

試しに顕微鏡でミノの先端を見てみたら、クラゲ由来と思われる刺胞をいくつか見つけました!思ってるよりも少ないような・・・? もっとびっしりあるのかと思ってました。
過去の論文には未発達の刺胞を取り込み体内で発達させるという記述もありますので、もしかしたらその最中なのかも? 実際 人に対してもオーストラリアで本種による刺傷被害が報告されています。思わず手に乗せてみたくなりますが、直接触るのは避けた方がよさそうですね。

本種は過去の記録から「共食い」をすることが知られています。また、雌雄同体であるため、成熟した個体同士を一緒にしておくと、すぐに交尾をして卵を産みます。多分これで体力を使い寿命が縮まるんですよね・・・ 。そのため、同じ空間で飼育するときは注意が必要です。

“えのすい”ではこんな感じで飼育しています。エアチューブを使って一個体ずつ隔離し、エアレーションをして飼育水に動きをつけています。いろいろ試してこの形に落ち着きました。アオミノアパートみたいでかわいいです。
調べてみたところ、生活史はまだ完全には解明されていないようです。カツオノエボシなどと同様で、状態よく手に入ることが少ないことから飼育された記録もほとんどないみたいですね。
先ほども言ったように、成熟した個体同士を近づけると、お互いがすぐに反応して交尾をします。

互いの交接器をねじねじと絡ませて交尾をし、その後 割とすぐに糸状の卵塊を産み始めます。

1つの卵塊には卵が 50個前後並んでおり、その卵一つ一つがベリジャー幼生になります。個人的に、この糸状の卵塊を見ると、長く連なった珪藻類(植物プランクトンの仲間)のことを思い出します。水の抵抗を大きくして浮力を確保し、より広範囲に拡散するための形・・・ なのでしょうか?

これが生まれた幼生です。生まれたばかりのときは貝殻を持っており、そういえばウミウシって巻貝の仲間だったなーと思い出させてくれます。この貝殻を成長と共に脱ぎ捨てるはず・・・ なのですが、ここから適した餌を与えることができず、これ以上発生が進んだ姿はいまだに見ることができていません。幼生を得ることまでは比較的簡単なので、今後はこの幼生たちを育てられるようにいろいろやってみます。もちろん目指すは生活史の解明と常設展示です!

飼育し観察することによって、本種の面白い生態がいろいろ分かってきました。
よく研究者の方に言われるのですが、水族館の強みは「飼えること」であることを今まさに実感しています。
他にも本種やその近縁種である「タイヘイヨウアオミノウミウシ」についてもぜひお伝えしたいことがあるのですが、今回はこれくらいにしておきます。本種はカツオノエボシやギンカクラゲなどのように、風向き・天気・潮流・潮汐などなど、いろいろな要因が重ならないと出会うことができないレア生物です。クラゲの仲間ではないのですが、ぜひ今のうちに見にきてください!

※追記 アオミノウミウシの展示は2023年10月22日をもって終了しております。

クラゲサイエンス

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