2023年09月22日
トリーター:伴野

野生動物保全繁殖研究大会に参加してきました

みなさんこんにちは!

今回は、8月28日~29日に恩賜上野動物園でおこなわれた野生動物保全繁殖大会にポスター発表にて参加してきたのでそのお話です。

発表内容は「新江ノ島水族館におけるバンドウイルカ(Tursiops truncatus)出産日推定の取り組み」です。

発表したポスター発表したポスター

この大会は会員相互の技術向上や情報交換を主な目的としており、新規の発見でなくとも内容がしっかりと伴っていれば発表できる大会です。
今回の私の発表内容も決して新しい知見ではないのですが、日ごろより動物たちから得られたデータをまとめており、どこかで発表したいと考えていたので本大会に参加しました。
ではでは、どんな内容かをざっくり紹介します。

バンドウイルカの出産日を推定することは、事前準備や何かあった際に人が介入するためにとても役に立ちます。“えのすい”では、胎子の発育確認や出産日推定のために妊娠中の母獣の体温と乳裂間幅を、さらに超音波検査にて胎子の頭大横径(頭の大きさ)を測定しています。

結果はざっくりいうと、
1.出産の2日前に母獣の乳裂間幅がとても拡大する
(乳裂とは腹部にある乳頭がしまってある溝のことです)

乳裂と計測箇所乳裂と計測箇所

2.出産の1日前に体温がとても低下する

妊娠中のバンドウイルカの体温と乳裂間幅の変化妊娠中のバンドウイルカの体温と乳裂間幅の変化

3.頭大横径からもとめた計算式について既報の計算式(y=0.0408x + 13.7603)と比較して今回の取り組みから得られた計算式の方が推定出産日の誤差が少ない
(同じ種でも生息地由来の対格差があるため海外の計算式は使用できない?)

胎子の頭大横径の推移と計算式胎子の頭大横径の推移と計算式本取り組みと既報の計算式を用いた出産日予想本取り組みと既報の計算式を用いた出産日予想

このように超音波で胎子がしっかりと成長しているか確認しながら、ざっくりと出産日を予想し、体温や乳裂間幅の出産直前の兆候を見て、“えのすい”では24時間体制で観察し出産を迎えています。

はじめてのポスター発表だったので、どのような感じか少し不安もありましたが、当日は多くの方に見ていただきほっとしました。また、日ごろあまり関わることがない動物園スタッフの話を聞くことができ興味深かったです。数値として記録を取ることももちろん大切なことですが、数値と動物の行動をしっかり照らし合わせて分析することが改めて重要だと感じました。

私の飼育員のモットーの一つに、「生き物から学び、まずは目の前の生き物へ、そして次世代に水族館で飼育される生き物へ、さらには自然界で暮らす生き物へ学びを還元する」というのがあります。
感覚だけで動物たちと過ごしていると良かったことや悪かったことも再現性がなくなってしまい、自分がいなくなった後に生き物へ役立てることができなくなってしまいます。しかし、数値や記録として残しておくことでその先も飼育される生き物へよりよい飼育ができ、これらの蓄積が自然界で暮らす生き物を助けるヒントになる日が来るかもしれません。

海の生き物とお客さまとの接点となるだけなく、生き物を深く知るためにもこれからも飼育生物から学んでいきます。

それでは、本日はこの辺で!!

ポスター発表風景ポスター発表風景

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