こんにちは!
みなさんの今年一年がすてきな一年となりますように。
さて、本日はちょっぴりお堅いお話です。
私はこれまで“えのすい”のイルカたちの繁殖にかかわる記録をまとめてきました。
決して新たな知見というわけではないのですが、生き物たちがくれた記録をまとめていつでも役立てる形にしておくことが大切だと考えております。
例えば、バンドウイルカの出産日の推定方法についてご紹介します。
これまでの研究から出産の直前に母親の体温が低下することが知られています。
ですが、もちろん個体差もあり、体温が下がりきらないで出産を迎えるケースもあります。
そこで母親の乳裂間の幅に着目です。
乳裂とは乳頭が収容されている溝のことで、現場レベルでは出産の直前に拡大することが知られていたので、ここが拡大したら生まれるなと予測ができる訳です。
このあたりのことは、昨年上野動物園で開催された野生動物保全繫殖研究大会にポスター発表として発表したり、イルカショースタジアムの解説板を変更してお客さまにお伝えしてきました。
そして、他にも興味があってまとめていたものがあります。
それは胎子の頭大横径(頭の大きさという認識でOKです)を超音波検査で調べて出産日を推定する計算式を求めることです。
ここからは少しくだけていますが、論文風に書いてみます。
はじめに
妊娠中の超音波診断は痛み等を伴わない診断方法で、ヒトや動物の医療において確立されています。ヒトでは胎児の異常を早期に発見し死亡率を減少させることができるといった報告や、胎児の身体計測に基づく出生時体重の推定などがあり、ヒト以外の動物でも、ウマにおいて正常な胎子の発育を評価することができるといった報告もあります。
バンドウイルカにおいては胎子の生存を確認するためや、胎子の身体計測に基づく出産日の推定について海外で報告がありますが、日本での報告は多くありません。またヒトでは海外で利用されている成長曲線は体格の違いにより我が国で利用できないことが証明されています。
そこで、“えのすい”で確認された 7例の出産事例を対象にして胎子の頭大横径を調べて計算式を算出し、海外のものと比べて精度よく出産日を推定できるのか比較してみました。
材料および方法
“えのすい”におけるバンドウイルカ計 7例の出産事例を対象とした。検査方法は受診動作にて腹上姿勢を維持して腹部にプローブを当て胎子の頭部を探して描出し、得られた診断画像を基に頭大横径を計測した。計178個の頭大横径の値から線形近似曲線を作成し出産日の推定に使用した。また、海外で利用されている計算式との差を検証するため、Lacave et al.(2004)の頭大横径=0.0408(出産前日数)+13.7603による出産推定日との比較も実施した。
結果
頭大横径の推移
胎子の頭大横径を最も早期に発見できたのは出産の320日前であり、0.9 cmであった。出産300~61日前までは30日毎に1.2~2.1 cm増加した。出産の60~31日前までの30日間では、0.4~0.6 cm増加と、増加量は減少した。出産30~1日前ではほとんど増加せず、全例の出産前10日以内の測定値の平均は14.0 cmであった。
成長曲線の作成
妊娠全期間を対象とした計178個の頭大横径の値から
1,頭大横径=0.0448(出産前日数)+ 15.293
出産360-120日前を対象にした計85個の値から
2,頭大横径=0.0491(出産前日数)+16.161
それぞれ上記の計算式が得られた
出産予想日の推定
計算式 1を基にした出産推定日と実出産日の誤差は、No.4では最も誤差が小さく±0日、No.6では最も誤差が大きく+28日であり、7例の合計を平均した誤差は8.6日であった。対してLacave et al.(2004)の計算式による推定では、No.1で最も誤差が小さく-7日、No.5では最も誤差が大きく-34日、7例の合計を平均した誤差は20日であった(表2)。計算式②では、No.5及びNo.7で最も誤差が小さくそれぞれ±2日、最も誤差が大きかったのはNo.3で+12日であり、7例の合計を平均した誤差は6.3日であった。
考察
胎子の頭大横径に基づく出産日の推定は、本取り組みにて得た計算式、頭大横径=0.0448X + 15.293による推定の方が、Lacave et al.(2004)の頭大横径=0.0408x+13.7603による推定より11.4日誤差が少なくなった。ヒトでは海外で利用されている発育曲線は体格の違いにより、日本使用できないことが証明されていることは前述したが、日本の水族館で誕生したバンドウイルカ新生子の平均体長は、テキサス沿岸に漂着したバンドウイルカの新生子から得た出生体長よりも約18cm大きいと報告がある。このことからも生息域の違うバンドウイルカでは体格に差があり、同様のことが推測される。また、ヒトでは妊娠末期に近づくにつれ頭大横径の発達が緩やかになることも分かっているが、本取り組みでも、バンドウイルカにおいても一日当たりの頭大横径の成長率は出産の約2か月前より減少し、妊娠末期にはほとんど成長しないことが確認された。このことから胎子の頭大横径の発育が必ずしも直線的になるとは限らない。
以上を考慮し、本取り組みでは出産360-120日前の期間で得た計算式、頭大横径=0.0491x+16.16を用いた出産日推定を実施した。結果、妊娠全期間を対象とした計算式よりも推定出産日の最大誤差を小さくすることができ、より高精度で推定することができた。ヒトでは妊娠初期においては胎児の発育の個体差が少ないことから、妊娠前半の超音波検査による身体計測に基づく出産日推定の方が正確な推定が可能であるといった報告もあるが、バンドウイルカにおいても同様の可能性が示唆された。しかしながら検査数が限りなく少ないため、今後とも継続してデータを収集する必要がある。
それでは本日はこの辺で!!