2024年01月30日
トリーター:石川

夫婦仲

ただいま子育て真っ最中のフンボルトペンギンの「ユメ」と「ホワイト」ですが、みなさんペンギンの夫婦仲ってとっても絆が深いっていうイメージをお持ちではないですか。

一度番(つがい)になると片方が死別したりしないかぎり一生同じ相手と一緒にいるという風なイメージを持たれている方が多いと思います。
私も入社したころは、同じように思っていました。当時いたペンギンたちは確かにそのように見えた番ばかりでした。

でも実際には浮気・・・はよく観察されました。しかし、当時、30年くらい前ですが、他の施設の方に伺うと、「うちでは浮気なんてしないよ、担当者に似たんじゃないの」というような返事が返ってきました。定説的に一夫一婦制が通例として認識され、表面的にはそうだと思われる行動をペンギンたちも各施設でおこなっていたようです。
しかし、飼育下で詳細な行動記録が観察され始めると、かなりの頻度で番以外の個体へアプローチしたり、交尾したりしていることがわかってきました。

こう聞くとペンギンも不埒(ふらち)な生き物のようにきこえてしまうのは、私としても本望ではありません。
長く連れ添っている番間では、そういった行動がほとんど見られないということもお伝えしておきます。

と一旦擁護しておきながらですが、例えば当館にいる雄で「ホワイト」と「マーチ」は兄弟ですが、「マーチ」は「フク」という番相手がいますが、よく他の雌へアプローチしますし、他の雌からも言い寄られています。
一方「ホワイト」は「ユメ」と番で、ほとんど浮気をしません。ゼロではないですけどね。(笑)

今度は雌側から見てみると「フク」は「マーチ」にベタ惚れで「マーチ」がよっぽど節操ないことをしない限り激しく怒ることはなく、何なら「マーチ」が開き直ることが多いように思えます。ただ年に1、2回「フク」がガチギレして「マーチ」が家へ入れないなんていうことがあり、飼育スタッフからは「まあしょうがないよね」って言われています。
一方「ユメ」はもともとかなり気位の高い雌のようで、一番高い場所の縄張りを「ユメ」が持っていて、そこへ「ホワイト」がアプローチして一緒になったイメージです。番になってしばらくは「ホワイト」が家へ(縄張り)へ帰らなくても「ユメ」は 1羽で帰るといったことがよくありました。しかし、子育てが成功しはじめてから「ホワイト」優位な感じになり、夫婦喧嘩をすると「ホワイト」が「ユメ」を縄張りへ入れない、なんてことも見られるようになりました。子育てが成功するまでは「ホワイト」が浮気をする現場は見られていなかったのですが、最近他の雌へのアプローチすることがときどきあるようです。
「ユメ」は他個体からよく言い寄られていましたが、番になってからはそういった雄からのアプローチはほとんどないようです。

左から「ユメ」、「ホワイト」、子ども左から「ユメ」、「ホワイト」、子ども

現在他に「グー」と「トップ」という番がいますが、雄の「トップ」が以前一緒だった雌の「コンペイ」と番を組んでいたときは、「トップ」が多くの雌へ番外交尾をおこない、自身の縄張り内で「コンペイ」がいても他個体と交尾をする有様でした。「コンペイ」の目の前で他の雌と交尾させてしまう「コンペイ」も今まで見たことがないタイプの雌ペンギンでした。
どちらも子育てにあまり関心がなかったこともあり、番外交尾の筆頭だった「グー」と「トップ」をくっつけて、「コンペイ」には新たに来た「ブラウン」との番形成を試みました。
「グー」と「トップ」はほどなく番となり、通常みられる番のように縄張りを 2羽で主張し、「トップ」が以前のように他の雌と交尾することはほとんど見られなくなりました。ちゃんと 2羽の間に有精卵も産卵されて、残るは育雛して自身の子どもを育てることと思っていたのですが、「トップ」が抱卵や育雛がうまくできず、自ら育てた 2羽のヒナはまだ誕生していません。
一方「コンペイ」と「ブラウン」は 2年をかけて少しずつ仲良くなってきていたのですが、「コンペイ」の年齢的衰えもあったのか、「ブラウン」からのアプローチは何度もされていたのですが、交尾や産卵は見られませんでした。そして昨年病を患って他界してしまいました。「ブラウン」はお嫁さん探しの真っ最中ですが、なぜか年上の比較的高齢な個体へのアプローチが多いようです。

こんな風に、たった 4番の話をしても紆余曲折です。ペンギンの番の結びつきが強いだなんて全然言えませんが、それぞれの人生ならぬ、ペンギン生を生きているようです。

最近「ホワイト」と「ユメ」の間に起こっている妙な行動で、私たちが「ユメ」に給餌しようとすると「ホワイト」が「ユメ」を突いたり、「ユメ」がヒナへ餌を与えようとするとやはり「ホワイト」が「ユメ」を突いたりといった行動が見られるのですが、そろそろ巣立ちをさせたい「ホワイト」が「もうそんなに与えなくてもヒナは一人前だから良いのでは」という意図としてそういった行動をしているのかなと思いきや、自分はヒナへ与えているので違うように思えます。
俺だけヒナへ与えたい的な過保護なニュアンスなのかとも考えましたが、ときどきヒナを突いて巣へは入れないことがあるので、それも違うように思えます。
まもなく独り立ちなはずですが、親 2羽の子育て方針には意見の相違があるようです。

長くペンギンを担当していても、まだまだペンギンを理解するには勉強が足りないようです。もっと観察を続けて精進いたします。

ペンギン・アザラシ

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