2024年07月20日
トリーター:石川

ペンギンの匂い

梅雨です。
ムレます。
臭います。

水族館や動物園では長靴、手袋、ウェットスーツ、胴長靴など臭いそうなものの宝庫です。
もちろん生き物本来の匂いはそれぞれあります。
トリーター的には本来の生き物の匂いも嗅いでもらいたいな、などと思ってしまうのですが、これが苦手な方はたくさんいらっしゃると思います。

陸生哺乳類ではこの匂いは安心の証でもあるようで、いつもの自分たちの匂いがする環境が安心の場所というのは、犬や猫を飼われている人はご理解いただける方も多いと思います。
ただ、なかには、うちの子は臭いませんという方もいるのではないかと思います。

実は“えのすい”のペンギン舎内は日中ほとんど臭いません。ある意味自慢です(笑)
一般にペンギン舎は普通に臭うところが多いです。プールを隔てているところも多いので、風向きによっては臭わないよう感じる施設もあるかもしれませんがペンギンが数十羽もいて普通に排泄していればそれなりに臭うのです。
“えのすい”のペンギン舎は多分日中は日本一、いや世界一臭くないペンギン舎だと思います。ときどき他の水族館・動物園の方や業者の方などがペンギン舎へ入ることがありますが、ほとんどの方が臭わない、といっていただけるのです。
“えのすい”では夕刻、トリーターが退出した時から翌日入室するまでの排せつ物を、朝徹底的に除去します。
衛生的な環境で飼育したいという根本的な思いはあります。
また、“えのすい”は環境的に外部から汚染される施設ではないため、例えば鳥インフルエンザのように他の鳥や昆虫、人が持ち込まなければ衛生的な環境を維持することが可能な施設なので、そういった感染症や、鳥マラリアなどの昆虫媒介による感染をも衛生環境を維持するだけでかなりの確率で防ぐことができるのです。
そして一番重要なところは、トリーターがいない夜の時間の排せつ物などと日中のペンギンたちの排せつ物などの痕跡を詳細に観察できるところです。
人と同じように排泄物にはさまざまな体調のサインが隠されています。また、個体によって多少の違いがあったりします。
日中床が全く汚れていないと、誰が排泄したかを特定するのが比較的容易です。誰が排泄したかがわかって異常があればすぐに対処できます。
朝最初に排泄される排泄物、多少活動した後に排泄される排泄物、朝の給餌後に排泄される排泄物も、1日のトータル的な排泄物と比較すると違いがあるようにも感じます。
夜は夜だけの痕跡となり、寝る場所がほぼ決まっているため夜間のようすも推測しやすくなります。
朝の徹底的な清掃によって、こういった排泄物やさまざまな痕跡から、いち早くペンギンたちの異常を察知することが可能になるのです。
清掃後は排泄物臭がほとんどないので、お腹を下した個体が通常より臭気の強い排泄をしていたり、いつもと違う酸っぱい臭いが入室時に感じられたりすると、どこかに異常のある排泄物があったり、嘔吐物があったりというのが先に臭いからも察知することができます。

さて肝心のペンギンの体臭ですが、現在換羽期を迎えてその臭いはいつもより増しています。特に換羽真っ最中のペンギンは水浴びをしない個体がほとんどなので、いつもよりきつめの体臭になります。思わず〇〇臭っ!て言ってしまったりします。
体調が悪くて体表の乾きが悪いときも、また別の体臭が強いイメージがあります。
この匂いですが、私は長い間ペンギン同士ではさほど気にしていないのではないかと思っていました。
近年海鳥ではオキアミや魚が群れている匂いをかぎ分けられるなんていう話を聞くようになりました。
実際、毎日魚をとりあつかう私たちも魚臭がします。毎日嗅いでいると気にならなくなりますが、仕事中に知人に会うと魚の匂いがするとか、シャワーを浴びずに帰宅すると子どもたちに臭いといわれます。
もっとマニアックな話では、例えばアジとイワシでは匂いが違います。カタクチイワシは魚臭がきつい感じがします。これは生臭いのではなくて各種魚の匂いなんだと思います。
となれば捕食者は「北へ2キロくらいの所にイワシが群れてる匂いがする」というのはあながち嘘ではない感じがするのです。
そして、この餌になる生き物が大量に発生し群れるとき、必然的にそれを食べる捕食者もたくさん集まります。
どちらが匂うのかは定かではありませんが、数万羽の海鳥が群れていれば数キロ離れていても風向きによって匂ってきたりするのかもしれません。1キロ2キロで海だと目視の方が鳥たちは発見しやすいと考えると、もっと遠い距離で仲間が大量に群れていることを感じ取っているというのもうなずける感じがします。
鳥たちが集う集団営巣地などはとても強い臭いを放ちます。人か近くに住んでいると鳥害と言われてしまうこともあるくらいです。
彼らからすれば安心の匂いなんだと思いますけどね。

かつて野生動物調査をおこなった時も、動物の排泄物が重要な手がかりになるため、山に入るとマーキングポイントなどを探して観察したことを思いだします。
フィールドに出ると、このマーキングポイントの匂いが探す手がかりになったりします。風上に動物が潜んでいて風下にいると獣臭が香ってくるんです。
蒐場や溜糞の場所も臭ってきます。もちろん匂いをかぐ行為は動物たちの方が特化しているので、たいてい先に私の存在がバレていることの方が多いんですけどね。

さて掃除のところまで話を戻しますね。この掃除のおかげで、日中は世界一臭くないペンギン舎になりますが、朝一番、全く掃除をしていないペンギン舎へ入ると普通にペンギン臭が激しく香ってくるのです。
では、ペンギン臭ってどんな臭い?
鳥を飼育されたことがある方は、鳥の匂いというとなんとなくイメージできると思います。
ベースは同じなのですが、もっと脂性分が強めという感じが私としてはペンギンに近い感じがします。
海鳥は魚食性のものが多く、排せつ物は植物性の食べ物を摂取している鳥に比べるとかなり臭うと思います。
また、防水性を保つために自らも脂分を出して、羽にコーティングする尾脂腺という機能があり、この脂性分が海鳥は独特の匂いを醸し出しているようです。

換羽期にだけ見えるようになる尾脂腺換羽期にだけ見えるようになる尾脂腺

ペンギン類の中でも、かつて飼育していたマカロニペンギンは特に匂いが強かった記憶があります。マカロニペンギンを調べてみると「強烈なヤギの匂い」という表現をしているところもあります。
最近面白い研究を読みました。
ウミスズメという海鳥の仲間で、雄が雌への求愛で柑橘系の香りを放つというものです。この成分にはかの?シ〇ネルの5番と同じ成分が含まれるとかなんとか・・・!!
すみません。
シ〇ネルの5番の香りと言われて私はああ、あの香ねッ!とはでてきません⤵
しかし鳥が体臭を匂いとして発すべき用途として利用していただなんて驚きでした。
でも?どの雄も同じ匂いですよね。より強い?きつい臭いの方が体が丈夫なんだとか。
香水のつけすぎな方は私はちょっと苦手です。
また、この香りは防虫効果もあるのだとか、そっちの方がなんとなく理解できる感じがします。
ズグロモリモズというコウライウグイス科に属するニューギニアに生息する鳥は、唯一羽に毒を持つそうです。
現地の人からは酸性の不快臭がして、皮は苦くて食べられない「つまらない鳥」なんて呼ばれているそうです。これは摂取される昆虫の毒が蓄積されるからだそうで、飼育下の個体では毒性分は形成されないのだとか、これも対殺菌効果とかがあるんでしょうか?それとも食べられてしまうことへの対処だったのか、奥は深そうですね。
ペンギン臭にも匂いの意味があるのかもしれませんね。
さて加齢臭を発して雌を引き寄せる時代ではなくなった人間としては、スメルハラスメントにはならないようにしたいものではあります。

ペンギン・アザラシ

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