私の飼育員人生も残り少なくなった今、思い起こせば 旧・江の島水族館、新江ノ島水族館で関わりのあった全ての生き物に対して出会えたことに感謝を感じています。
旧・江の島水族館時代には、入社してトレーニングのことも鯨類のこともよく分かっていなかった、私のはじめてパートナーになったのがハナゴンドウの 「ビーナ」 でした。
今も元気で過ごしている姿を見るのが楽しみです。
旧・江の島水族館には私の恩人ともいえるバンドウイルカの 「ドン」 がいました。
他にも感謝を伝えたい仲間がいたのですが、今回は 「えのすい 20周年」 ということですので、またの機会にさせていただきましょう。
まずはバンドウイルカの 「スー」 を語らせていただきましょう。
「スー」は若いころ、「リー」 という相方がいて、常に2頭でショーに参加していました。
2頭でのロケットジャンプを得意として、各種ウルトラ種目おこなう花形スターでした。
新江ノ島水族館オープンに向けて、今までと違うコンセプトのショー「ドルフェリア」を立ち上げる際には、とても心強い存在でした。「スー」はのみ込みが早く、機転が利くので 「ドルフェリア」 の立ち上げの新しい項目の構築にとても貢献してくれました。
比較的若いイルカたちを引っ張って 「ドルフェリア」 を形作り、「ドルフェリア」 開幕後も 「ドルフェリア」 を支えてくれました。
「スー」 は優等生でしたが、採血だけは苦手でした。 注射針が尾びれに触れるだけで逃げてしまうのです。 かつて採血に嫌悪を抱いてしまったようです。
新しくトレーニングをするより、できていたものに嫌悪を持ってしまったものを直すのはなかなか骨が折れます。 ここでも 「スー」 とはただのトレーニングではなく、メンタル面やハード面など、多面的にアプローチすることを教えてくれたのも「スー」 でした。
一対一で採血の試みを繰り返し、比較的コンスタントに採血できるようになった時、「スー」 との距離がかなり縮んだような気がしました。
トレーニングはショーの種目などを 「教える」 だけでなく、言葉を交わすことができない異種とコミュニケーションをとるための 「約束事の構築」 という面もあると感じさせてくれたのも 「スー」 でした。
他にも 「シャドウ」 やオキゴンドウの 「セーラー」 なども語りたいのですが、これはまたの機会に。
続いてはイシガキダイの「モノドン」です。
海獣担当から魚類担当に移動してすぐ、相模湾大水槽で新ショーを立ち上げるために、大水槽の魚にトレーニングをして欲しいと依頼されました。
その最初に選んだのがイシガキダイでした。
当時イシガキダイは3匹おり、外見から「鼻白」「鼻黒」「一本歯」と呼び分けていました。 その中の一本歯が一番好奇心が強く、両眼視でこちらを見据えるところがビビッときて、一本歯をパートナーに選びました。
ちなみに、一本歯は上あごの歯が欠けていて前歯が一本に見えたためでした。
一(mono)本の歯(odon)から「モノドン」と名付けました(イッカクの属名と同じです)。
試みに犬用のクリッカーを用いて、イルカのホイッスルと同じトレーニングから始めました。 比較的のみ込みが早いうえ、クリッカーの意味も理解しているようでした。 結局、時間の関係で 「一緒に回る」 という動きが固定されましたが、もう少し突き詰めれば面白いことができたかもしれません。
当初、魚のトレーニングはどんな感じか分からずにはじめましたが、なかなか魅力的だと感じました。 「一緒に回る」という行動も私的には遊びでダンスしている感覚でおこなっていましたので、水中で 「モノドン」 といるのはとても楽しい時間でした。
当初、他の魚のごはんを横取りしたりしないように、「モノドン」 は基本的に最初に接して、その後は触れないということにしていました。 それも理解できていて、「モノドン」 は自分の出番が終わるとその場を離れるか、遠巻きにこちらを見ているだけでした。
ある時期、イサキがごはん泥棒をするようになりました。 特にミノカサゴの「トロン」 はごはんに狙いを定めるまでに時間がかかりがちで標的にされていました。
ある日、またイサキが泥棒しに 「トロン」 に体当たりした瞬間、「モノドン」 がイサキに体当たりし、逃げるイサキを水槽の奥まで追いかけまわしたことがありました。 最初は偶然かと思いましたが、数回目撃したので確信的だと思います。
その他 「オセロ」 「ハク」 「トロン」 など他の魚のことも語りたいことはたくさんあります。 ダイビングショー「うおゴコロ」 はある意味、立ち上げから運営まで参加したことは人生の中でも貴重な体験の一つです。
某氏に言われた 「唐亀さんからうおゴコロを取ったら何も残らないじゃないですか」 は的を射た一言でした。
これらはほんの例に過ぎません。20年間で出会い関ることができたこと、本当に感謝いたします。