2025年03月31日
トリーター:加登岡

えのすい20周年 ~生き物たちへの感謝~
ドタブカ

本日で2024年度も最終日となります。私の飼育員人生も14年が経ちました。そんな私が感謝を伝えたい生物はドタブカです。私の夢をかなえてくれた生物です。
私が飼育員になろうと思ったのは、物心つく前に水族館の水槽の中を優雅に泳ぐサメに魅かれたことがきっかけでした。そこから飼育員になるための道がスタートしました。

入社して最初に担当したのはイルカやアシカで、サメとは程遠い生物でしたが、飼育員としての基礎を教えてくれたのはサメではなく、海獣類たちでした。ドタブカに感謝をする前に、担当した生き物たちに感謝をしなくてはなりませんね。
先輩たちに比べると、まだまだ短い飼育員人生ですが、その 3分の 2を海獣類たちと過ごしています。動物たちとの接し方を教えてくれたのはオキゴンドウの「セーラー」、ハズバンダリートレーニングの難しさを教えてくれたのはバンドウイルカの「ミュー」、鯨類の学習能力の高さはバンドウイルカの「マリン」に教えてもらいました。今ではお母さんになってしまいましたが、えのすいに来たばかりのミナミアメリカオットセイ「アポロ」が初めてごはんを手から食べてくれた日の感動は今でもいい思い出です。自分の飼育員として考え方を教えてくれた動物たちに感謝です。

だいぶ脱線してしまいましたが、ドタブカは私が魚類の担当になって 3年目の時に出会った生物です。その当時、サメの企画展をおこなうこととなり、子どものころから飼育員になったらやってみたいことの一つである夢を叶えるべく仕事をしていました。
その企画展では、遊泳性のサメの入手が課題となっていました。遊泳性のサメは基本的に泳ぎ続けていないと呼吸が困難になって衰弱してしまいます。そのため輸送方法も気を付けなければなりません。事前に運送方法を学会の発表で聞いたり、他園館から情報を得ていましたが、実際に実施したことはありませんでした。そもそも出会えるかどうかが一番の問題でした。広い海の中を常に移動しているサメたちが私たちの目の前に現れてくれるかどうかは運に頼るしかありません。サメを採集するべく、漁師さんの船に乗せてもらいました。
漁師さんにサメ狙いと伝えると、あんまり最近は見ないというなんとも悲しい情報しかありませんでした。あまり期待は出来ない状況でしたが、その時に奇跡的に網に入っていたのが、ドタブカでした。漁師さんが網ですくいあげてくれ、サメ専用に作った担架に収容し、呼吸ができるようにポンプでサメの口に海水を送り込み、尾鰭(びれ)が硬直しないように、まるで泳いでいるように尾鰭(びれ)を左右に振ってマッサージをしながら陸に戻って来ました。陸に戻ってからもトラックで水族館に運ばなければなりません。当館のトラックには大きな水槽はありません。しかし、今回獲れたドタブカはトラックで運べる程よい大きさでした。いくつもの奇跡が重なり、無事水族館に到着し、バックヤードに搬入して泳いでいた時の達成感と安堵感は今でも忘れません。最初は壁にぶつかったりもしていましたが、徐々に環境に慣れ、安定した泳ぎになり、その後も相模湾大水槽に展示し、無事に企画展を終えることができました。


実際に生物を飼育していると分かることがあります。ドタブカは図鑑で見ると、大型になり、人を襲って危険ですと紹介されます。しかし、えのすいのドタブカは体が 1mほどで、搬入した時には臆病で警戒心が強く、人や大型の魚が近付くと慌てて逃げて行きます。また、同じ時期にえのすいにやって来たクロヘリメジロザメと比べて、成長がゆっくりです。最大全長はドタブカの方が 1mも大きくなりますが、これも飼育していて気付くことができました。成長と共にこれからさまざまな変化や新しい発見ができることと思います。飼育員として成長させてくれたドタブカにこれからも感謝し、彼の成長を見ていきたいと思います。

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