2025年07月02日
トリーター:山本

4 館同時展示! 水族館生まれのフクロクジュクラゲ!

本日( 7月 2日)より、クラゲサイエンスで特別なクラゲを展示しています。その名もフクロクジュクラゲ。傘は縦長の直方体に近い形をしており、長頭の福の神である「福禄寿」に似ていることから名前が付けられました。知る人ぞ知るこのレアクラゲは、夏になると海水浴場に出てくるアンドンクラゲなどが属する箱虫綱のクラゲです。

傘高が最大 10cmほどにまで成長し、秋ごろになるとお隣の駿河湾で稀に採集できることがあります。えのすいでも何度か展示したことがあるのですが、成体を飼育することはとても難しく、いずれも数日の展示となってしまいました。

さて、本日から展示しているフクロクジュクラゲは現在 1cmほど。実は、福山大学マリンバイオセンター水族館(広島県)・鶴岡市立加茂水族館(山形県)・九十九島水族館海きらら(長崎県)のみなさまと一緒に「世界初の水族館生まれのフクロクジュクラゲ」として、きょうから 4館で同時に展示を始めたものなのです! みなさまにぜひ見ていただきたいクラゲですので、ぜひ日誌で紹介させてください。

今年の 3月、普段クラゲ研究でお世話になっている福山大学の泉さんから突然「フクロクジュっぽい謎のポリプ送っていい?」と連絡が来ました。どうやら、福山大学の内海生物資源研究所にある水槽の濾過槽(水をきれいにするところ)のろ材にポリプがついており、謎のクラゲがたくさん発生していたようです。「フクロクジュ!? ぜひ!」と送ってもらったのがこちら。

届いたポリプはとても状態が良く、触手をすらっと伸ばしています。輸送の刺激によって、えのすいに到着した時にはすでにクラゲが遊離しておりました。

こちらが遊離したてのクラゲ。
よく泳ぎます。大きさは 1mmくらいで、傘の表面には粒々があり、触手はとても短いです。普段クラゲを扱っている私たちからすると、見るからに「箱虫綱のクラゲだな」という印象ですが、種までは全然わかりません。泉さんから加茂水族館や九十九島水族館にも同じようポリプが送られましたので、何℃で飼育する? 餌はどうする? と、相談しながら育ててみることにしました。

基本的に暖かい水温(25℃くらい)で育てるクラゲは成長が早いのですが、このクラゲはすごーくゆっくりの印象です。ポリプをいただいてから約 3か月、毎日餌をあげてようやく 1cmくらいにまで成長してくれました。

時を同じくして、この謎のクラゲの正体を確かめるべく、こちらもいつもお世話になっている黒潮生物研究所の戸篠さんによって遺伝子解析が、福山大学の泉さんによって成長したクラゲの形態観察が行われました。そしてようやく、このクラゲが「フクロクジュクラゲ」だと分かったのです。このお二人はもともと小さいクラゲを見て「フクロクジュっぽい」と言っていたので、大当たりだったわけですね。さすが…!

世界的にみても本種の情報は乏しく、ポリプや稚クラゲの情報は古い文献に断片的な形態の記述があるのみです。飼育下で生まれたフクロクジュクラゲの展示はもちろん「世界初!」ということで、当館と先の 2館、そして福山大学の内海生物資源研究所内にあるマリンバイオセンター水族館をあわせた 4館みんなで同時に展示をしよう! となったわけです。大学と研究機関、そして水族館がそれぞれの“強み”を活かしたからこそ実現した展示… なんて最高なことでしょう。

まだ成長途中なので、「この部分がフクロクジュクラゲの特徴!」と言うのが難しいのですが、ただでさえ珍しい本種の幼い状態を見ることができるのはある意味すごいことだと思います! 私たちと一緒に成長のようすを観察していきましょう。ぜひ「えのすい生まれのフクロクジュクラゲ」をご覧ください!

最後になりますが、今回お世話になった福山大学の泉さん・水上さん・佛円さん、黒潮生物研究所の戸篠さん、加茂水族館の池田さん、九十九島水族館の野添さん・今村さんに、この場をお借りしてお礼申しあげます。貴重なクラゲを展示する機会をいただき、本当にありがとうございました。何より普段お世話になっている気心の知れたみなさまと一緒に展示できたことがうれしかったです! 今後ともよろしくお願いいたします!

クラゲサイエンス

RSS