今年もやってきました、インフルエンザの季節が。
今年の流行シーズンは例年より早いらしいですが、みなさん予防接種(ワクチン)は受けましたでしょうか? 予防接種は大事だと思っていても、あの痛いのをやられると思うと少し腰が重いですよね。ちなみに私は刺される瞬間は顔をそむける派、獣医師の松田です。
さて、予防接種ですが、実はえのすいのイルカたちにもおこなっています。インフルエンザに対するものではなく「豚丹毒(とんたんどく)菌」、および「クロストリジウム属菌」によって引き起こされる病気を予防するためのものです。これらの病気はインフルエンザと違って季節性は特にないため、1年の中で個体をローテーションしながら、ワクチンごとに決まっている間隔で接種をおこなっています。
「豚丹毒菌」はその名の通り豚での感染が、「クロストリジウム属菌」は牛での感染が多いのですが、どちらもイルカにも感染することがあり、発症してしまうと命にかかわるおそれもあります。イルカ専用のワクチンは存在しないため、豚や牛で使用されているワクチンをイルカでも使用しています。
我々がその重要性を承知していても、できれば避けたいワクチンのお注射。イルカたちにはワクチンの大事さを理解してもらうことは(おそらく)難しく、我々と同じで痛いことはきっと嫌でしょう。我々は嫌々病院に行きますが、生き物は本能的に嫌なことからは離れようとするため、イルカのワクチン接種はイルカを陸上に上げておこなうことが多いです。
しかしえのすいでは、トリーターとイルカたちで練習を重ね、自分で陸上に上がってきてのワクチン接種ができるイルカもいるのです。
今回は特別にバンドウイルカの「ニコ」のワクチン接種のようすをご覧ください( 9月の写真ですのでトリーターがみんな半袖です)。
まず、「ニコ」に上陸してもらい、横を向いて注射をしやすい体勢になってもらいます。

次に、トリーターたちが「ニコ」のからだをなでたりしながら、軽く支えます。

「ニコ」が落ち着いていれば、ついにワクチン接種の瞬間です。背びれのまわりにある筋肉に注射をします。

今回、針を刺した瞬間は少しぴくっとしてやはりびっくりはしたようですが、すぐに落ち着いて注射の後の止血にも応じてくれました。
ワクチン接種自体はほんの数十秒の短い処置ではあるのですが、今回のようにイルカにも協力してもらって処置をする場合には、長い時間をかけて練習しています。まずは陸上に上がること、上がったままでいること、人が近づいてからだを支えられていても気にしないこと… などなどができることが必要になります。それに加えて、ある程度の刺激がある「針を刺すこと」に対しても、まずは軽く触られることから始め、指圧、爪、氷、爪楊枝など、段々と本番の針での刺激に近づけていって、それらも「大丈夫だよ」という状態に「ニコ」がなれば、はじめて本番に臨むことができます。
過去のトリーター日誌でも、ワクチン接種に向けた練習について書いてあります。
水族館ではショーのためだけでなく、イルカもヒトも安全を確保しながら健康管理ができるようにもトレーニングをおこなっています。そのトレーニングの成果に応えるためにも、私たち獣医師も腕を磨かなければなりませんし、体調を崩してお仕事ができないなんてことにならないよう、まずは予防をしっかりしないといけません。それでは、私もインフルエンザの予防接種に行ってきます。