2025年11月13日
トリーター:山本

ミカヅキノエボシとカツオノエボシの仲間たちその 1

えのすいでは今年、カツオノエボシの展示がかつてないほどにうまくいっており、4月に「初ガツオ」を展示してから現在に至るまで、おそらく半年分くらいは展示ができた気がします。現在展示しているカツオノエボシも採集したのが 9月 29日なので、一か月を優に超えてくれました。細かく言葉で説明するのが難しいですが、これは飼育技術が向上している!ということで、素直に自分たちを褒めたいと思います。本種の飼育に興味がある方は、こちらの日誌を見ていただけるとうれしいです。

さて、今回はカツオノエボシの「分類」についての最新のお話を何度かに分けてしたいと思います。この話をするために、重要な論文を2つ紹介しなければなりません。

まずはここ最近の 10月末、クラゲ界隈(?)に激震を走らせたこちらの論文。

Physalia mikazuki sp. nov. (Phylum Cnidaria; class Hydrozoa) blown into Japan’s northeast (Tohoku) at the whim of marine ecosystem change

日本で新たなカツオノエボシ属の新種が誕生したのです。その名も「ミカヅキノエボシ(Physalia mikazuki)」。本種は東北大学の研究グループが発表した論文によって新種として記載されました。

そしてもう一つは、少し前の今年の 6月、ミカヅキノエボシが爆誕するよりも少し前に、私たちも関わった論文

Population genomics of a sailing siphonophore reveals genetic structure in the open ocean

が出ていました。
この論文では、(※諸説あったようですが)世界で 1種とされていたカツオノエボシを分類学的に精査したところ、少なくとも 4種いるということが分かったという論文です。このうちの 3種は、18~ 19世紀に別種として提案されたことのあるもので、当時の考え方が正しかったと分かりました。そしてもう 1種は新種 P. minutaとして記載されました。

… つまり、これらの論文によって、これまで世界に一種(※)とされていたカツオノエボシが 2025年で一気に 5種類(P. physalis、P. utriculus、P. megalista、P. minuta、P. mikazuki )もいることになったわけです。これは …!カツオノエボシの展示飼育に力を入れている私たちにとってもすごく大きな出来事となります。
魚名板や展示物に記載している学名を変更する必要があるか?「カツオノエボシ」という和名がどの種を指すのか?「猛毒生物」として有名ですが、果たしてすべての種がそうなのか?
カツオノエボシのことを正確に語るためには、カツオノエボシ属の現状を把握し、日本で発生する「カツオノエボシ」とは一体何者なのかをしっかりと学ばなければなりません。

ということで、今後の日誌で先ほどの二つの論文を詳しく紹介していこうと思います。全国のカツオノエボシファンのみなさま、ぜひ一緒に学んでいきましょう。

クラゲサイエンス

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