12月も半分を終え、クリスマスも近づいてきました。クリスマスはいろいろとドキドキすることがあるイベントらしいですね。よく知りませんが。私はクリスマスよりも年明けにいとこたちに渡すお年玉がいくらになるのかでドキドキしています、獣医師の松田です。
「ドキドキ」と聞いたとき、思い浮かぶのは心臓、そしてこんな図ではないでしょうか。

こちらのグラフのようなものは、「心電図」と呼ばれます。
心電図について細かいことを説明しようとするとながーくなってしまうので、簡単にいえば「心臓に流れる電流をグラフの形で表したもの」です。
私たちの体に備わっている筋肉が動く時、その「動け」という指令は電気信号、電流となってそれぞれの筋肉に伝わっています。そして心臓も筋肉でできた臓器であり、意識とは関係なく動いているものではあるものの、ドキドキと動いている時には電流が流れているのです。その電流を体に装着した電極で受け取り、流れる強さや向きなどを線として表したものが心電図です。
…あまりうまく説明できた自信がないので、心電図の詳しいことが気になる方はわかりやすくまとまったサイトなどをご覧いただければと思います。
さて、なぜ心電図の話をしているのかというと、最近、えのすいでは心電図を測定している生き物がいるのです。
今回は、ミナミアメリカオットセイの「ライラ」での測定のようすをご紹介します。

心電図を測定するとき、右前肢に赤、左前肢に黄、右後肢に黒、左後肢に緑と、くしくもクリスマスカラーのコードにつながったクリップ型の電極を装着します。
私たち人間が健康診断などで心電図を測定するときには胸にぺたぺたと電極を貼り付けることが多いかもしれませんが、全身に毛が生えている犬や猫では上記のように四肢に電極を装着することが多く、オットセイでの測定もそれにならっておこなっています。
こんな感じでクリップ型の電極を挟みます電極が装着できたら、そこから 30秒ほどじっとしていてもらいます。
これが難しい …!
測定中の「ライラ」。動かず待ってくれています。体が動いてしまうと、その時に動いた筋肉に流れた電流も計測してしまって正しい心電図が得られなくなってしまうので、測定中は体を動かさないでほしい。しかし 30秒という意外と長い時間を、「OK」の合図の魚を渡さずに待ってもらう(魚を食べるときにももちろん体が動いてしまうため)のは、おそらく「ライラ」にとってはもどかしいはずです。それを待ってもらえるよう、担当トリーターといっしょに練習してもらいました。もちろん電極の装着も「ライラ」にとっては不自然なものなので、この練習もおこなっています。お医者さんに言われた通りじっとできる私たちヒトからすればぴんと来ないかもしれませんが、これができる「ライラ」は本当にすごいと思います。
30秒の計測が終われば、このような形の心電図の波形を得ることができます。
ライラの心電図波形の一部最初にお見せしたのが、ヒト代表としての私の心電図なのですが(波形が若干乱れているのはごめんなさい)、少し形が違うような気がしますね。
心電図の波形は動物種によって少しずつ異なることが知られています。その理由は、心臓の中で電流が通る経路の違いや、心臓の形の違いなど、さまざまな要因があると言われているのですが、こちらも難しい話になりそうなので割愛します。
ちなみに、イルカの波形は下のようになります。ヒトともオットセイとも全然違いますよね。
バンドウイルカ「サワ」の心電図波形そもそもなぜ心電図を測定しているのか?という話になりますが、心電図の波形からは不整脈や心筋の異常などがわかることがあり、主に心臓の病気などの診断につながる情報を得ることができます。
ヒトだけでなく、オットセイをはじめとした生き物も、高齢になるにつれて心臓の病気になりやすいのではないか、と考えられています。これからえのすいの生き物たちも年を重ねていって「心臓の異常かも?」となった時、心電図が測定できる、平常時の心電図波形がわかっている、といったことは診断の大きな助けになります。
水族館で暮らしている生き物たちには、わかっていないことがたくさんあります。オットセイの心電図についてもイルカの心電図についても、まだ研究が進んでいる段階ではありますが、えのすいでもコツコツとデータを集めていきたいと思っています。
研究機関の役割も担っている水族館、こんな未知のことにも触れることができるなんて、なんだかドキドキしてきませんか?