2025年12月27日
トリーター:山本

ヒクラゲ展示への挑戦

“えのすい” では 12月 6日から 10日にかけて、ひさしぶりにヒクラゲの展示を行いました。 展示する直前に私たちが書いた こちらの日誌 を見ていただけるとうれしいです。
たったの5日間の展示となってしまいましたが、みなさまご覧いただけましたでしょうか。 わざわざ広島まで行って5日… と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが(私も思います…!)、この5日の間に、私たちのいろいろな思いが詰まっているのです。
前回の日誌は出先の勢いで書いていましたが、今回は少し落ち着いて、ヒクラゲを展示するまでのことを思い出しながら書いていこうと思います。

はじめに、70年も前からクラゲ飼育のことばっかりを考えている私たちからしても、ヒクラゲ飼育の難易度は激ムズです。 当館では過去に何度か本種の展示をしていますが、いずれも3日か4日くらいで展示を終了しています。
採集してきても、あまりにすぐだめになってしまうので、当館で本種を展示する機会はどうしても少なくなってしまいます。
しかし「飼育できないクラゲ」とするにはあまりにももったいないほど、デカくてカッコいいクラゲなのです。 実は、過去にとある水族館で1か月以上ヒクラゲの飼育をしていた記録があります。 つまり、ヒクラゲ飼育は「不可能」ではないのです。
カツオノエボシのように、難易度の高い生き物でもコツをつかめば展示期間をのばせるはず!… ということで、今年久しぶりにヒクラゲ飼育に挑戦してみようと思い立ちました。

しかし、遠く離れた地で馴染みのないクラゲを狙って採集することはかなり難しいことです。 そこで、今年の7月にフクロクジュクラゲの件 で大変お世話になった泉さんに連絡を取り、福山大学を出張の拠点とさせていただくことにしました。 そして、現地の海を知り、ヒクラゲ採集の経験がある先輩方に情報をいただき、目指すポイントを絞っていきました。
また、ヒクラゲにかかるストレスをなるべく減らすために、人がすっぽり入るくらいの巨大なビニール袋を用意し、普段とは違う方法で輸送ができるように準備をしました。

そして迎えた当日! いつも遠方の採集はプレッシャーに押しつぶされそうになります。
「全然いなかったー」じゃ帰れません。 片道 10時間ほどなので、現地に到着したころにはすっかり日が暮れていました。
そわそわしながら夜の漁港を探索です。 さて、ヒクラゲはいるでしょうか…。

「いた!!!!!」
興奮と安堵の混じった霜鳥トリーターの声は今でも覚えています。
私もそれを聞いてすごく安心しました。

前回の日誌にも書きましたが、このヒクラゲはちょうどヒイラギを捕まえたところだったようで、触手にくっつけたままバフバフと泳いでいます。すごすぎる…。
そして、ここでなんと福山大学の佛円さん(泉さん同様、フクロクジュクラゲの件で大変お世話になりました!)が現地に駆けつけてくれました!


3人でワイワイしながら、水中でも動画を撮影してみました。
もし自分が潜っていて突然目の前にこれが現れたらびっくりするどころじゃないと思います…。 とりあえず、この時点でヒクラゲが見られて本当によかったです。
今回の作戦は「採集して即帰館!」だったので、このときの個体は展示用としては採集しませんでした。 あすに備えて1日目終了です。

そして2日目。 ヒクラゲは基本夜に活発になるため、昼間は泉さんをはじめ福山大学のみなさまとクラゲ採集をしたり、福山大学の内海生物資源研究所内にあるマリンバイオセンター水族館を見学させていただいたり、研究室を案内していただいたりしておりました。 今回はヒクラゲ採集がメインの出張だったため、怒涛のスケジュールでいろいろ見させていただきましたが、今度またゆっくり伺いたいなと思っています。
みなさまありがとうございました!

そして肝心の夜。 泉さんと広島工業大学の近藤さんも参戦してくださり、4人で夜の漁港探索です。 そして、すでに前回の日誌でも結果をお知らせしておりますが、ヒクラゲは無事に採集することができました!





…ここから前回の日誌の続きになります。
再び 10時間のドライブを経て、無事に “えのすい” に帰館した私たち。
ヒクラゲの状態は…

とても良さそうです!!
輸送時は水温の変化で拍動が止まったり触手が縮んでしまったりしていましたが、適温に収容したところ、すぐに元気いっぱい泳ぎだしてくれました。
ヒクラゲを搬入するためにかなり力をかけましたのでしたので、状態良く搬入できて本当に安心しました。
「これならあしたから展示できそうだね!」
…そして12月 6日、ドキドキしながら展示開始を迎えます。

12月 6日(展示1日目)


初めはクラゲファンタジーホールの円柱型の水槽で展示を始めました。
いつもクラゲを水槽に出すときは 「いってらっしゃい」 とか 「がんばれ」 とかだけじゃなく、いろんな感情が混じった気持ちで送り出します。

初日は「泳いで → 沈んで → 泳いで → 沈んで」を繰り返し、迫力ある姿を見せてくれました。 照明も少し工夫してみたので、見え方がいつもと違っていたかもしれません。


12月 7日(展示2日目)

見た感じはそこまで変化なく、これなら普段よりずっと長く飼育できるのでは…? と、正直ちょっと期待してしまう感じでした。 でも、ようすを見ているとどうやらあまり浮かずに底をぐるぐる回っています。


12月 8日(展示3日目)

!!??
朝見ると傘の形が…。
明らかにしぼんでいます。 同じくあまりに浮いてこなさそうだったので、閉館後に角型の水槽に移動しました。
水槽が変わって水流も変わり、ヒクラゲはなんとか浮いています。


12月 9日(展示4日目)

傘の上部が欠け始め、全体的に縮んで丸みを帯びた三角形のようになってしまいました。
拍動も弱々しく、水流に身を任せている感じ。


12月 10日(展示5日目)

ついに傘に穴が開いてしまい、破れた袋のようになってしまいました。
この日をもって展示終了です。


結果、展示期間は5日間。 搬入時に思い描いていた結果よりもかなり早く終了してしまいました。 正直ものすごく悔しいです。
水槽の形状、水流の強さ、水温、塩分、照明… 「あの時こうしていれば」があふれてきます。
しかし、今回の挑戦が絶対に無駄ではなかったと言えるほど、得られたものは本当にたくさんありました。 数年後には当たり前のようにヒクラゲを飼育し、かっこいい姿をみなさまにご紹介できるように、一歩ずつ情報と経験を積み重ねていこうと思います。
今後もご期待いただければうれしいです!

最後になりますが、今回採集の拠点としてお世話になった福山大学の泉さん、水上さん、佛円さんをはじめとして、現地のヒクラゲ情報を惜しげもなく教えてくださった黒潮生物研究所の戸篠さんや、現地に駆け付けてくれようとしたなぎさ水族館の内田さん、実際に駆け付けてくださった広島工業大学の近藤さんなど、私たちがヒクラゲを採集するためにこれだけ多くの方々が協力してくださったことに、胸が熱くなりました。改めて、今回の採集や展示にご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました。
そして、今回 “えのすい” に来てくれたヒクラゲたちに最大の感謝を。

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