春の大型連休もあっという間に過ぎ去り、気づけば 5月も半ばです。
朝晩はまだまだ涼しい日がありますが、昼間は暖かいを通り越して暑いくらいですね。そんな中でもえのすいのクラゲを管理しているバックヤードの部屋(「クラゲ生産室」と呼んでいます)は、24時間 365日 20℃をキープしているので、一日作業しているとフリースを羽織っていても寒いくらいです。
前回のトリーター日誌 でクラゲの換水について書きました。鉢虫綱のクラゲはポリプからエフィラが遊離しますが、ヒドロ虫綱の場合はポリプから遊離するのは仔クラゲです。先日、ポドコライナ・ボレアリスのポリプの換水をおこなうため、ポリプの入った容器の蓋を開けると、たくさんの仔クラゲが遊離しており、思わず「わぁー!」と声が漏れてしまいました。
ポドコライナ・ボレアリスのポリプは、2023年にノルウェーで開催された、国際ヒドロ虫学会のワークショップの中で、Yトリーターが入手してきたものです。普段はクラゲ生産室内の 15℃のインキュベーターの中で管理し、週 1回給餌と換水をおこなっています。3年ほど飼育を続けたことで、一年の中で春から夏の間にだけ、ポリプから仔クラゲが遊離することが分かってきたそうです。つまり、今の時期はちょうど、仔クラゲがポリプから遊離する時期にあたります。
さて、ここで一つ疑問に思ったのが、一定の水温で管理しているにも関わらず、クラゲはどのように季節を感じているんだろう? ということです。
最初に書いたように、クラゲ生産室は 24時間 365日ほぼ一定の室温をキープしています。ポドコライナ・ボレアリスのように 20℃以外の水温で飼育したい場合には、それぞれ温度を一定にしたインキュベーターの中で管理しています。さらに部屋の中には窓がないため、太陽の光も入ってきません。私はクラゲ生産室で作業していると、外が暖かいのか寒いのか、晴れているのか雨が降っているのか、時計を確認しなければ今が何時なのかすら、わからなくなることがあります。もし、クラゲ生産室の中だけで生活したとしたら(現実的にはありえませんが…)、一年どころか一か月も経てば、時間も季節もまったくわからなくなってしまう気がしています・・・。
少し話が逸れましたがクラゲの話に戻ると、一般的に、クラゲは水温から季節を判断しているといわれています。ポリプが子孫を残すのに最適な時期を水温から感じ取り、クラゲへと変化するため、クラゲ生産室では飼育水温を人為的に操作することにより、クラゲの育成を試みています。しかし、ポドコライナ・ボレアリスに限らず、一部のポリプは、一定の水温を保っていても季節がわかるようなので不思議です。先輩トリーターたちに聞いてみたところ、自然界にいたときの体内時計が残っているのか、もしくは気圧の変化等を感じとっているのかもしれないと言っていましたが、詳しいことはわかっていないようです。
毎日生き物に向き合っていると、さまざまな疑問がわいてきます。図鑑やネットで情報を得るだけでなく、飼育してみないとわからないこともたくさんあります。飼育しているポドコライナ・ボレアリスがどうやって季節を感じているかはっきりとわかりませんが、この時期にしか遊離しないということも、飼育してみないとわからなかったことです。日々生き物と向き合い、飼育のデータを蓄積することで、少しでも生き物への疑問が解消できたらいいなと思っています。そうしてわかったことをみなさんにお届けすることができたら最高です。
ポドコライナ・ボレアリスは、現在クラゲサイエンスで展示中です。一年の中で見られるのはおそらく今の時期だけでしょう。展示中の個体は傘径 2㎜ ほどしかなく、とても小さいですが、ぜひこの機会にご覧ください。