2023年10月27日

三陸フィールド調査(後半)
「三陸の海、藻場再生活動に参加して」

  • 期間:2023年10月24日~27日
  • 場所:岩手県大船渡市、釜石市、大槌町
  • 目的:東日本大震災の被災地視察
  • 担当:大下・八巻


みなさんこんにちは! 八巻です。
遅ればせながら、先日ご報告した「東日本大震災の被災地をめぐって」の後半、三陸の海の藻場再生活動への参加についての記事を書かせていただきます。

私たちはここ数年、江の島のフィールドで環境保全や環境教育の活動をおこなっている江の島・フィッシャーマンズ・プロジェクト(EFP)へ協力、活動に参加して江の島の藻場保全に携わらせていただいています。江の島にはもともとカジメの海中林がありましたが、近年急速に減って磯焼けが進んでおり、その保全と再生を目指すことが活動の目的です。
3年前ほど前、私が保全活動に参加しはじめたころは、少ないながらもまだカジメを観察できました。しかし今では、自然のカジメを見ることは全くできなくなってしまいました。文字通りの壊滅状態です。
最近は近隣で拾ったカジメから、遊走子と呼ばれるカジメの“種”の出る部分を網袋にいれ、「スポアバッグ」を作成、海底に設置してカジメ藻場の再生を目指しています。狙い通り、スポアバッグを設置した周辺に新たなカジメの幼体が確認できることもありますが、おそらく食植性の魚類に食べられてしまい、うまく育たないということが続いています。とはいえ対策を模索しながら、少しずつ前進できています。

このように、私たちは江の島の海では保全活動に継続して関わらせていただいていますが、一方で他の海での保全活動や再生に成功した藻場を見たことはありません。そんな中、EFPの活動にも参加しており、震災後に三陸で藻場の再生に成功し、現在も保全活動を継続しているという三陸ボランティアダイバーズ(三ボラ)の活動へ参加させていただく機会を得ることができました。
私自身、前の報告にも書かせていただいた通り、三陸は大学時代を過ごした地でもあります。しかし、三陸にいた当時は釣りをしていた程度で海に潜ったことはありませんでした。今回初めて三陸の海を見ることができるのも、とてもうれしく楽しみにしていました。そして何より、相模湾以外の海を見て体験することで、相模湾をより深く知ることができるという点も、私たちトリーターにとってとても意味のあることだと思っています。

今回は代表佐藤氏を中心とした三ボラのメンバーの方に案内していただき、藻場の保全活動を体験させていただきました。潜った場所は大船渡市三陸町の浪板海岸と、大槌町吉里々々の吉里吉里フィッシャリーナです。

まずは大船渡市三陸町の浪板海岸。

大船渡市三陸町の浪板海岸大船渡市三陸町の浪板海岸

ここはリアス式海岸が続く岩手県の海岸にしては珍しく砂浜があり、夏には海水浴場でもあります。砂浜から続く砂場の海底には一面三ボラが再生に成功したアマモ場がありました。

最初は一角だけにしかなかったアマモ場を海岸全体まで広げることに成功したとのことです。活動の成果がこのように形になっているのは本当に素晴らしいことだと思います。
浪板海岸の防波堤からつづくコンクリートブロックには、コンブのスポアバッグを設置しました。

コンブが繁茂するようすを見ることができたら良かったのですが、今回は時期的に少し早かったのと、夏の間の高水温で溶けてしまったとのことでした。これからの時期、設置したスポアバッグから出た遊走子が幼体になっていくことを祈っています。
生き物は、メバル類の群れ(上段左)など江の島でもよく見かける魚もいれば、ウミタナゴ類のようにあまり見かけない魚の群れ(上段右)、リュウグウハゼ(中段左)やアイナメ(中段右)、フサギンポ(下段左)、マボヤ(下段右)など、北方の生き物を見ることもできました。一方で江の島以上に南方系の魚が多かったのは驚きでした。

ソラスズメダイはもちろん、ムレハタタテダイやツノダシ、チョウチョウウオ類、ロクセンフエダイなども普通に見ることができました。今年は特に南方の魚が多いようです。

ソラスズメダイソラスズメダイ

ツノダシツノダシ

ロクセンフエダイロクセンフエダイ

次に吉里吉里フィッシャリーナです。

こちらはウニによる食害が非常に進んでいた場所で、地道なウニ駆除で海藻が復活してきたエリアです。砂地に巨大な岩が点々とあるような海底で、ウニの有無で状況が大きく違いました。ウニのいる岩は明らかに海藻が何もなく、海藻がたくさん生えている岩にはウニが少ないという状況です。

ウニの食害を一目瞭然で体験することのできるエリアで、とても勉強になりました。今回はこのウニの駆除をおこないましたが、駆除するだけではなく、採捕して餌を食べさせた後、食用として売り出すという事業もおこなっているようです。
こちらの生き物のようすは波板海岸とは少し違い、キタムラサキウニはもちろんたくさん見ることができまし、イトマキヒトデも優先していました。こんなにたくさんのイトマキヒトデを見たのは初めてでした。

今回藻場保全活動として、スポアバッグの設置とウニの駆除を体験しました。
スポアバッグの設置は江の島でもおこなっていますが、ウニの駆除はあまりやっていません。というのも、江の島の磯焼けは、アイゴなどの食植性魚類の影響がおおきく、ウニについてはほとんど影響がないからです。吉里吉里フィッシャリーナで見たように、ウニは駆除すれば、同じ海域の中の駆除されていない場所と比較しても明らかに効果が現れます。一方で、魚については移動範囲も広く、駆除も難しいという側面もあります。
知識としては知っていましたが、やはり実際に現場を見てみると、その違いを一目で理解することができました。スポアバッグの設置についても、設置の方法が異なり、海域ごとにより良い方法が異なるということを体験的に理解できました。今後の江の島の藻場保全活動にも活きてくる体験だと思っています。また、今回北の海を見られると思っていたものの、実際は江の島よりも南方系の魚を多く見るという意外な結果にはとても驚かされました。

何より知識だけで展示や解説をおこなうのではなく、実際に現場に足を運んで“今の海”を知る大切さを改めて噛みしめることができたこと、それが今回の一番の成果だと感じています。

これからも私たちは、藻場の保全や海底清掃はもちろん、えのすいecoデーによるビーチクリーンなどを通じて、地域の海、江の島の保全活動に努めていきます。

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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