新江ノ島水族館・なぎさの体験学習館では、行政機関や市民団体により、希少淡水魚の保護や復元活動がおこなわれている水域の生物調査に協力しています。絶滅のおそれのある生物が記載されている神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006というリストがありますが、ここには動植物や昆虫など、県内で見られなくなった生物や、絶滅しそうな生物が記載されており、ミナミメダカは、その中でも最も絶滅の危険性が高い絶滅危惧ⅠA類に挙げられています。神奈川県内に生息するミナミメダカは、遺伝子レベルで系統解析されていて、大きく5つの水系に分けられています。各地域で系統ごとにミナミメダカ(以下、メダカ)の保全活動が実施されており、このうち当館では小田原市酒匂川水系のメダカ、藤沢市境川水系のメダカ(愛称:藤沢メダカ)、三浦市北川湿地のメダカ(愛称:三浦メダカ)の調査に協力しています。
調査では採集班と計測班に分かれ、採集班は手網や敷き網で生物を採集し、計測班は採集した生物の体長、体重および捕獲数等を計測していきます。結果を解析することで、メダカの繁殖状況など、現状の復元状況や生物相の変遷を把握し、施策の有効性の検証や、環境改善のため、新たな施策の立案・実施につなげていきます。
調査場所毎に生息する種やその生物相が異なり、メダカが順調に増殖している場所もあれば、横ばいや減少傾向にある場所もあります。その中で、復元のために放流したメダカが大幅に減少してしまったのが、藤沢市を流れる境川水系復元地です。当館のある藤沢市内で野生復元を試みている2地点とも、数年前に競合種となる外来種・カダヤシが放流されてしまったことで、それまで順調に定着していたメダカが激減し、ほんのわずかしか確認できない状況となってしまいました。私たち人間の手で、いとも簡単に生態系が崩れてしまうことに驚愕しました。しかし、絶滅に瀕した生物をどう守っていくのかを考えることも、私たち人間の役割。カダヤシのような外来種の侵略により、競合に負けてしまう在来生物の事例は少なくありません。今ある自然環境や生態系を壊さないことが最も重要ですが、神奈川県の場合は、本来の自然環境や生態系を復元させることが強く求められています。今後も、当館では、少しでも多くの方々に復元の現状をお伝えし、身近な自然に目を向けていただけるよう、調査への参加や情報発信、展示や解説に力を注いでいきます。
当館の展示には淡水の展示は多くはありませんが、豊かな海を育む河川の生態系や環境にも興味を持っていただければと思います。今年度はこのあとも希少淡水魚の調査や生息地の整備なども予定していますので、追ってご報告させていただきます。
2024年度前期
浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら
どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。
打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。
浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。
どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。