2011年08月05日
トリーター:根本

君はいったい何エビなのかい?


前回の「頭寒腹熱極楽温泉システム」の話を読んでくれた方、有難うございます。
今この文章を書きながら、その効果を確かめるべく実験をおこなっているところです。
きょうは当直であしたの朝まで水族館にいるので、終電・終バスを気にせずのんびり実験ができます♪
閉館作業後、低温室にカメラを設置し、頭寒腹熱極楽温泉システム水槽を 15分ごとに撮影してエビの行動を観察しています。
といってもデジカメのインターバル撮影機能におまかせなので、最初セットしたら後は朝までほっとけばいいのです。超楽チンです♪♪♪
その間に水槽の硫化水素濃度関連の実験です!
相変わらず水槽の硫化物濃度のセッティングは難しいです・・・ 。
15℃帯(水深でいうと 400mくらい)はそこそこうまくいくけれど、4℃( 1,000mくらいから下)がちょっと・・・。
今回は二酸化炭素とのかね合いを探ったのですが、実験結果は
「おやおや・・・、どうしてこうなっちゃうんだい」
といった感じ・・・。
うまくいかないもんですね。
この実験の話はまた今度。
今回は謎のオハラエビの正体にせまります!

おととい、深海の調査航海の打ち合わせで海洋研究開発機構(JAMSTEC)に行ってきました。
ここは、私の青春時代末期の大学院生の 2年間を過ごした場所です。
知り合いも多く、ここに来ると忙殺され忘れかけている学術的なやる気を思い出させてくれます。いつ来ても刺激的です。

さて、修士のとき私が何を研究していたかというと、オハラエビの遺伝子を使って系統関係を見ていました。
「オハラエビの肉を溶かして遺伝子を取り出して塩基配列を読んで、それを種類ごとや海域ごとで比べて関係性を見る」
といった仕事です。
やっぱりオハラエビには思い入れがあります。
なので種類が分からないオハラエビ(Alvinocaris sp.)はちょっと見逃すわけにはいきません!
航海の打ち合わせで行ってはいますが、バックのポケットには例の謎のオハラエビのホルマリン標本をねじ込んできています。
会議が終わったらこれを持って私の研究のお師匠さんに相談です!
完全にアポなし訪問でしたが・・・。

根:
「どうも、こんにちは~、今大丈夫ですか?」
お師匠:
「おう!ねもっくん、あれ連絡あったっけ?」
根:
「いや、突然着ちゃいました・・・、航海の打ち合わせでこっちに来ていたもので。実はちょっと相談がありまして」
お師匠:
「あそう、で、何?」
根:
「これなんですけど、水曜海山で採れたエビの種が良くわかんないんです。」
お師匠:
「どれどれ。」
根:
「額角の形や尾節(エビのしっぽの真中の部分)の先端中央にトゲが生えてるところからAlvinocaris brevitelsonisっぽいんですけど、Alvinocaris luscaっぽく尾節の中央が凹んでるんです。」
お師匠:
「ちょっとまって、○○くん、ちょっと来て。今オハラエビやってくれてる○○君、」
お弟子さん&根:
「どうも始めまして」
お師匠:
「それじゃちょっと、顕微鏡で見てみよう!」

と言うことで、顕微鏡で見ることに。

お師匠:
Alvinocaris brevitelsonisだと思うな~。○○くん長節(歩脚の節の一つ)にトゲ見える?」
お弟子さん:
「見えないです。」
お師匠:
「えっ、どれどれ・・・。あるじゃん、陰影を使わないと良く見えないんだよ」
お弟子さん
「あ!本当ですね、3つありますね」
お師匠:
「3つ!? どれどれ・・・、あぁ~、3つあるね」(Alvinocaris brevitelsonisは2つ)

いろいろ見てもらいましたが、結局種解明にはいたりませんでした・・・。
オハラエビの分類自体が今まさに現在進行中の研究分野なので、種の同定は非常に難しいのです。
さらに毎年のように新種が発見されていますので、自分が見ているものが他のどのオハラエビとも違うことを証明するだけの分類学的知見と経験を持っていないと同定は困難です。
こういう時に遺伝子を見ると良い参考になるんです。

あ~、なぞは深まるばかり・・・。
あなたたちはいったい何オハラエビなのだろうか?

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