2012年04月05日
トリーター:根本

魚も病気になります。


新江ノ島水族館では神奈川県の三浦市の人口と同じくらいの生きものが暮らしています。
それだけの数の魚が暮らしていれば、我々と同じように元気な者もいれば、病気や怪我をする者もいます。

我が深海チームの杉村氏は熱い男です。
病気の魚を治そうという気持ちがとても強く、尊敬すべきところです。
杉村さんは人工呼吸や薬などを使い、魚を治療してゆきます。

病気や怪我をした魚が元気になって行く姿をみるのはとても嬉しいものですね。
私も杉村さんのワザを背後で見て盗みつつ、自分なりに練って病気が治せる飼育員を目指したいなと思っています。

ということで、今回はきのうおこなった魚の空気抜きのお話。
今回のクランケはキントキダイ。
浅場から水深 400mくらいまでを棲みかにしている深海魚の一つです。
定置網で 2匹入り、1匹は現在展示中ですが、もう一匹の調子が悪く横になってプカプカ浮いてしまっています。浮力の調整が効かないようすです。
本人は焦って一生懸命姿勢を立て直そうとしますが、最後は風船のように浮いてきてしまいます。
始めは元気が残っていますが、このままにしておくと疲れてやがて死んでしまう可能性があります。
対策としては体内に必要以上の溜まっているガスを減らしてあげれば良いわけです。
過度な浮力が無くなり姿勢も戻り魚自身の気持ちも落ち着くはずです。

さて、使うのは注射器。
これをお尻の穴からそっと刺して空気を引き抜くわけです。
空気がどこに溜まっているのかを見極め、内臓をできる限り傷つけないように短時間でけりをつけるのがキモです。
ミスすれば大事な魚を自分の手で殺してしまうことになりますので勇気と冷静さが必要です。

感染症にならないよう、注射器を滅菌し、治療する容器の海水には抗菌剤を溶かし準備をします。
魚を容器に移し、手で包むようにして持ち、お尻の穴に針をスルスル入れていきます。
針はほとんど抵抗なく入って行きます。
そしてここぞという場所に針を持っていき、注射器で吸うとガスが抜け・・・ない。

ここで焦ってはいけません。

少しずらして引く。
抜けない・・・ 。
ほんの少し血が注射器の中に入ったりします。

・・・焦ってはいけません。

一度抜き、冷静に観察。触診して再度ガスの所在を確認。魚もまだ大丈夫。深呼吸をしてもう一度刺す。注射器を引く。
ガスが少し抜けました。
ほっとして針を抜く。泳がすと・・・症状は変わらず。
全然抜き足りてないようでした。

次で針を刺すのも三回目。
そろそろ魚の内臓のようすもかなり心配になって来ます。
「次で最後にしたい・・・。」
狙いを定めて針を刺す!引く!するとドンドンガスが抜ける!ドンドン抜ける!!
ドンドン抜ける??
針を外すと魚の体が沈み風船状態は改善したが体が明らかに重そう・・・。

焦る気持ちを抑え、沈む体を上げようと泳いでしまうのを落ち着かせる方法を頭をフル回転させ模索し、数十分ほど落ち着かせた後、元いた水槽に戻してやりその日は終了。

本日、恐る恐るのぞきに行くと、ちょっとダルそうにしているけれども状態はよさそう。体の姿勢も悪くない。
本当に良かったと思う瞬間でした。
餌を食べるようになればきっと元気になるでしょう。

順調に回復したら展示水槽に移したいと思います。その際は元気になった姿を見てくださいね。

キントキダイキントキダイ水面に横たわるキントキダイ水面に横たわるキントキダイ

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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