2015年06月05日
トリーター:伊藤

好きなモノほど悩ましい・カエル

6月テーマ水槽6月テーマ水槽

今月のテーマ水槽は梅雨にちなんで両生類です。

[ 6月テーマ水槽「しとしとしっとり カエル・イモリの仲間たち」 ]

私にとって、学術的な興味、研究対象として好きなのが淡水の貝ならば、愛でる対象として好きなのが両生類という感じです。そんな彼らについて、解説板で語り切れなかったことを少々。


ハイチオオアマガエル


アレンゴリアテガエル

ハイチオオアマガエル&アレンゴリアテガエル
どちらも私自身、初めて実物を目にした種であり、今回のテーマ水槽の目玉です。色彩的には地味ですが、特筆されるのはその大きさ。前者はアマガエル類全体の中でも最大級で(飼育下でバンバン太らせたイエアメガエルなどには劣る)、アマガエル属の中では文句なしで最大です。
落ち着かせるためにやや隠れ家多めで展示してますので、よく探して見てください。
後者は有名な世界最大種ゴリアテガエルに近い(同じ属)種です。展示の個体は小ぶりで、地味なウシガエルみたいですが、見れば見るほど味のある姿です。バックヤードでの餌食いも良好だったため、こちらはあえてシンプルなレイアウトで、見やすくしてみました。


フタユビアンフューマ

フタユビアンフューマ
数ある両生類の中でも断トツに特異な存在です。ウナギのように長い体に、申し訳なさそうに生えた足、いつも笑っているようなニンマリ顔。物陰に隠れがちな有尾類にしては物おじせずに良く動く、などなど魅力が目白押し。学生時代に飼育していたこともあり、個人的に思い入れの深い種でもあります。


トウキョウダルマガエル

トウキョウダルマガエル
前者とは逆に、一般的なカエルの特徴を兼ね備えたキャラです。陸にいても水にいてもさまになるたたずまいに、美しい色彩、なかなか立派なサイズ。
本来ならばこれに身近さもプラスなのですが、関東南部では急速に数を減らしているため、むしろ珍しさを感じる人の方が多いかも知れません。
本種は、警戒心の強さや逃げ足の速さ、どん欲な性格など、生き延びるために有利な性質をいくつも持っていますが、人為的な環境改変が本種の生活史を分断してしまっているのでしょう。想像ですが、冬眠に必要な環境の消失が大きいのではないでしょうか。

最近考えることがあります。カエルやイモリは近年急激に水田から姿を消し、そのために関心を持たれ、保護活動などもおこなわれるようになっています。でも水田って、少なくとも日本では、弥生時代に伝来して広まった人工の水辺なのですよね。昔ながらの水田を保護する活動に参加してみてつくづく思うのは、人が手を加えなくなった水田や水路の変化の速さです。数年放置で、みるみる泥が積もって浅くなり、草がボーボーになってしまいます。よほど精力的に人手をかけずには維持されない水辺なのだと実感するのです。

水田は私たち人間の営みの場であり、自然との調和を無視はすべきでないものの、やはり効率よくお米を生産することを優先しなくてはなりません。私のいなかも農家で、中学生の頃一度だけ田植えを手伝ったことがありますが、区画整備された場所で機械を用いていたのにかなりの重労働でした。昔ながらの谷戸田などを維持する苦労はその比ではないと想像できます。今ある「カエルが豊富な昔ながらの水田」を、未来にわたってどの程度残せるかはあまり明るくありません。局所分布の個体群にとっては致命的かも知れません。

でも、ここで考えを変えると、水田伝来以前にも、カエルたちが住んでいた環境が、どこかに絶対にあったはずなんですよね。一般的には河川の氾濫原とか、水はけの悪い平地にできる湿地帯ではないかと想像します。今の日本からは急速に失われている環境で、該当する場所を探すのも簡単ではありませんが、そうした環境が持つ「カエルが暮らせる条件」が分かってくれば、残すべき環境も分かり、残せる環境は限られるものの、絶滅などの悲しい事態は避けられるのかも知れません。

当館にほど近い鵠沼地域も大昔は広大な湿地だったそうなので、もしかするとカエルたちの楽園だったかも知れません。そうした本来の生息地は、自然の摂理で変化はするものの、長い目で見れば人が管理せずとも維持されるかもしれず、そんな場所を守ることができればなあ、と夢見ています。下手に自然に手を加えず、放置することでそういう環境が勝手にできてくる可能性もありますが、現代人との共存という面では課題が多そうです。

少々といっておきながら、おちもなく長文ですみません。何はともあれ、6月テーマ水槽、お楽しみください。

テーマ水槽

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