2020年07月07日
トリーター:伊藤

ピンときたピンノ

1週間ほど前、片瀬海岸の漁師さんから「水面にカニが大群で泳いでいた」と連絡がありました。その時点で「もしやあれかな?」と脳裏をよぎりました。

“オヨギピンノ”

知っていたのは名前だけ。もう 10年以上前ですが、深海コーナーの担当者だった時に、ラスバンマメガニという、ゴカイの巣(棲管)にすむ小さなカニを展示しつつ研究したことがありました。

飼育下におけるラスパンマメガニのフサゴカイ科の 1種への寄寓

研究する時に、その種類についてすでに分かっていることは何か、本や論文を読み漁って把握しました。その中のいくつかにオヨギピンノの名がありました。これまでの私にとってオヨギピンノは、字面の上でしか存在しない想像の生き物でした。ラスバンマメガニと共通点があることや、インパクトのあるその名から、10年経ってもぱっと浮かんだのかもしれません。

漁師さんのところへうかがうと、カニの群れの一部を持ち帰ってくれていました。確かに見たことない種類でシャカシャカと泳ぎ回っています。持ち帰って調べると、どうやらこれがオヨギピンノらしいです。急いで展示の準備に入りました。

同僚からは「なんでそんなに急いでいるのか」と不思議がられましたが、とある不安があったからです。本種が泳ぐのは、論文などの内容から察するに、一生のうちのごく短期間かも知れないのです。もたもたしていると「砂に潜ってもぞもぞする地味なカニ」の展示になってしまう、何としても泳いでいるうちに展示だ!と思ったわけです。同僚に協力してもらって、バックヤードでの様子見をすっ飛ばして展示しました。

そんな杞憂をよそに、現時点でもシャカシャカ泳いでいるところをご覧いただけます。場所は相模湾ゾーンの相模湾キッズ水槽です。コロナ対策として、ただでさえ密になりやすい相模湾キッズ水槽には、あんまり探すのに時間がかかる(≒人が滞留しやすい)小さくてマニアックな種の展示はしばらくやめよう、ということにしています。なので「泳ぐ期間」が終わったら、展示を終えるかもしれません。見たい方は、お隣のお客さまと十分に距離を取りつつ、お早めにご覧ください。

相模湾ゾーン

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