2023年01月18日
トリーター:石川

人間寄りな?ペンギン

1月18日は“えのすい”で唯一、人工育雛(じんこういくすう)で育て上げられた「テン」の 6歳の誕生日です。

卵を温めるところから、自ら魚を食べられるところまで、すべてを親ペンギンに代わって人が育て上げたのは“えのすい”史上初でした。
人工育雛はなかなか難しく、個人的にも想い入れの深いペンギンです。

人工育雛をしなければならない目的は親が温めなくなった卵や育てられなくなった雛(ひな)を代わりに育てる緊急的な場合が多いです。
しかしペンギンは、孵化してすぐに自ら餌をついばんでくれる鶏のひよこのような鳥ではありません。
まずは卵が孵化するために、温度や湿度を保って、時々卵を回転させたり、時々温めない時間も必要です。
雛(ひな)が孵化(ふか)してから 3か月ほどは、人間の親が決まった時間にミルクを与えるのと同じように、最初は 2~ 3時間おきに、親が魚を吐き戻して与える状態に近いミンチ状の餌を少量ずつ与えていきます。
また、自身の排泄物で汚れたり、濡れたりしないようにまめに掃除もしていきます。

さて、鳥類の行動学によく出てくる「刷り込み」という行動があります。
孵化して最初に見た動くものを親と認識するというものですが、鳥類では親以外に子育てに加わるヘルパー的な役割をするという種類もいて、その家族や群れ構成はさまざまです。

では、「刷り込み」される対象は何羽までなんでしょうか?
人工育雛を始めるにあたってそんな疑問を抱きました。
ペンギンは親が育てるため、親と認識するのは 2羽ではないかと思っていたのですが、かつての繁殖したペンギンで、親が育てたにもかかわらず、人への刷り込みもなされたのではないかというような行動が見られたこともありました。そのため、「テン」の人工育雛に携わるトリーターが 6名ほどいたので、どのように刷り込まれるのか大変興味がありました。

何を基準に刷り込まれたかを判断するのかは難しいですが、野生でも周囲に同じ種類のペンギンがいますが、親子の関係とは明らかに違います。隣のペンギンか、身内になれるか、というところなのかなと想像していました。
実際には「テン」が成長するにしたがって、その対象が減っていったように思います。
自我が芽生え始めると、甘えるか、嫌だという意思表示が強くなるか、少しずつ差が出てきたように見えました。「テン」が最後まで甘えるようなしぐさを見せていたのは、3名だったと思います。
私も途中から隣のおじさん扱いになってしまったようでした。
もちろん 1例でしかないので、他の多くの“えのすい”生まれのペンギンを見てきても、個性は 1羽 1羽違います。他の施設では万人へ甘えるしぐさを見せるような場合もあったようなので、今後またそういう機会があれば経緯を見てみたいと思います。

さて、人工育雛で育ったペンギンは、自身を人間だと思ってしまうことで、人には懐くのですが、他のペンギンとコミュニケーションが取りにくくなるケースが多く報告されていて、「テン」もやはり人間寄りなペンギンのようで、他のペンギンから威嚇されると人間の方へ逃避してきてしまう傾向が見受けられています。
このため時間をかけて同居をさせて、コミュニケーションを学んでもらっています。
人へ逃避してくる姿は私たちとしては可愛いと思えてしまいますが、他のペンギンとこれから暮らしていく「テン」にとっては、他のペンギンともコミュニケーションをうまく取ってほしいところです。

フンボルトペンギンで 6歳というと人でいうと20歳くらいでしょうか。大人になっていく「テン」ですが、他のペンギンとコミュニケーションが取れるまで、まだまだ心配な気持ちでいっぱいです。

ペンギン・アザラシ

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