2023年01月23日
トリーター:八巻

トリノアシ再生する 2

みなさんこんにちは! 八巻です。

きょうは以前もお話したトリノアシの再生について、改めて感じた驚きを、みなさんにお伝えしたいと思います。
トリノアシはウミユリのなかまに属する原始的な棘皮動物で、花のような外見を持つ深海生物です。

トリノアシはもはや、私の中ではサツマハオリムシと同じくらい大きな存在の生物になっています。サツマハオリムシは学生時代からの専門ですから、思い入れも深く、興味の尽きない生物です。
一方でトリノアシは、水族館で働くようになってから扱う機会が増えた生物です。
特にこの 2年間、私が取り組んできた江の島沖大陸斜面域の調査で、同海域の優占種であることが分かってからは、常時展示を続けており、注目しています。

現在は、私たちトリーターが水中ドローンをつかって自分の目で見てきた風景を再現する、というコンセプトの水槽、水中ドローンで発見! 江の島沖 深海の入り口で展示中です。

江の島沖大陸斜面域の海底は、急斜面の岩礁と平坦な砂泥をくりかえす階段状になっています。トリノアシは急斜面の崖面を登りきった一番上、際のあたりでよく見かけ、羽のような腕を広げて、急斜面に沿って上がってくる湧昇流にのって流れてくるプランクトンを捕まえて食べます。

今回の特別展の水槽は現場のような湧昇流をできる限り再現し、トリノアシにとって暮らしやすい環境を意識してみました。実際展示したトリノアシはそれぞれ自分の好きな流れの場所を見つけ、そこにとどまっています。

しかし、やはり中には状態が悪くなってしまうものもいて、腕を全て落としてしまい、中央の柄の部分だけになってしまうこともあります。
そうなってしまうとなかなか復活するのが難しく、これまでは諦めてしまっていました。

ところが今回、その状態の個体を水槽にそのままにしていところ、なんともう一度腕が生えてきたのです!
11月末に、柄の先端に何か出てきているなぁと気づいてから約 2か月、1月23日の今現在は、明らかに腕と分かるまで伸びています。

現場では腕が全て落ちた後に再生したと思われる個体を見たことがあります。
しかし、水槽の中では以前トリーター日誌でご紹介した程度で、0からの再生は見たことがありませんでした。柄だけで一体どうやって栄養を得ているのか、本当に不思議です。

今回トリノアシの驚くべき生命力を目の当たりにして、改めて生命の面白さや興味深さを感じました。また、自ら再生するくらい飼育がうまくいっていることに、とても喜びを感じました!
このまま最後まで伸びてくれるよう、頑張って飼育していきますので、ぜひ実物を見に来てください。


バックナンバー
2022/07/01 トリノアシ再生する




特別企画展 水中ドローンで探検!江の島沖 深海の入り口」は、船の科学館「海の学びミュージアムサポート」の支援を受けて実施します。

深海Ⅱ-しんかい2000-

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