2023年05月13日
トリーター:西川

寄生虫研究の取り組み

水族館の仕事の一つに研究があります。
研究というと一人で黙々と取り組むイメージを持っている方も多いかもしれませんね。私自身も去年取り掛かっていた研究では標本室に一人でこもって作業することが多かったので、そのような研究が多いのも事実です。でも、一口に研究といってもさまざまなものがあります。今回のトリーター日誌では、私のおこなっている研究の一部をご紹介します。

去年まで標本室にこもってやっていたのは「 江の島の潮間帯動物相-Ⅷ 」という研究で、タイトルの通り江の島の陸と海の堺に棲む動物をまとめた研究です。興味のある方はぜひ読んでみてください。
そして、今年度取り掛かっている研究の一つには寄生虫の研究があります。
私は学生時代、魚の病気に関係する研究室に所属していたので寄生虫の基礎知識はあるものの専門ではありません。そこで「 公益財団法人 目黒寄生虫館 」と一緒に寄生虫の研究をおこなうことになりました。これは先日、研究の打ち合わせのために目黒寄生虫館へ訪問させていただいたときの写真です。

 公益財団法人 目黒寄生虫館 (左) 巌城研究室長 (右)倉持館長 と 公益財団法人 目黒寄生虫館 (左) 巌城研究室長 (右)倉持館長 と

なぜここまで寄生虫に力を入れているか、それは水族館にたくさんの寄生虫が潜んでいるからです。おそらくみなさんが思っているよりもたくさんの寄生虫がいます。
アニサキスという寄生虫を知っていますでしょうか。私たちが食べるサバやサンマ、イカなどに寄生していて、それらと一緒に食べてしまうと激しい腹痛に見舞われます。このように私たち人間に害を与える寄生虫のことはもしかしたら知っているかもしれませんね。
でも、海の中の寄生虫は人間と関わらないものがほとんどです。
例えば、ウミガメにもアニサキスの仲間が寄生することがあります。ただ、“えのすい”で飼育してるウミガメにはいないと考えられています。なぜそういえるのか、それは寄生虫の生活史を紐解くことでわかります。
この寄生虫は、未熟なときにはある特定の貝に寄生していて、その貝をウミガメが食べることで貝からウミガメに移動すると考えられています。しかし、水族館にはその貝がいないため、寄生虫は増えることができずにウミガメの中で寿命を迎えます。
このようにウミガメの場合は寄生されても弱ることがなく、繰り返し寄生されなければ寄生虫はいなくなりますが、寄生虫の種類や寄生される魚の種類によっては命を脅かすことも少なくありません。
とくに水族館で多い寄生虫はベネデニアです。数ミリ程度のとても小さな寄生虫が体表に付きます。ベネデニア1匹だけが付くことはあまりなく、1匹いればたくさん寄生しています。
魚は寄生された部分がかゆいらしく、落とそうとして水槽の壁やレイアウトに体をこすりつけ、最終的にはその傷に細菌が繁殖して衰弱してしまいます。
ベネデニアは真水に2~3分浸すことで除去できるので、たくさん寄生されている魚は水温を合わせた真水の中へ入れ、寄生虫だけを除去しています。
ベネデニアがここまで水族館の中で蔓延してしまうのには理由があります。それは大きさが小さいのはもちろんのこと、体の色が半透明で発見しづらいんです。気付くのが遅れることで見つけたときにはすでに蔓延しています。それともう一つ、ベネデニアは卵が強くてたとえ真水に浸けても水槽から雑に取り上げても卵が死なないんです。卵を倒せなければ次々にベネデニアの親が産まれてきます。すごい生命力、繁殖力です。

この他にも、きょうは相模湾大水槽の魚からウオビルの仲間が見つかりました。この仲間はあまり研究が進んでいないのでわからないことがたくさんあります。

ウオビルの仲間ウオビルの仲間

このように日常に蔓延している寄生虫を減らしてくことはもちろん、まだ解明されていない分野についても研究を続けていくことが大切です。

今回、目黒寄生虫館さんとともにおこなう研究もこの先の水族館業界・寄生虫業界で役立つものになるはずです。
水族館の魚たちが快適にくらしていけるように、その環境づくりをいろんな面から取り組んでいきます。

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