2024年11月21日
トリーター:山本

カツオノエボシの繫殖に向けて・・・!

毎年夏になると「危険生物」として必ず話題になるカツオノエボシ。今年の夏は、当館の「えのすいのくらげ展」でも特設コーナーを設置して紹介していました。結局最長飼育記録には届かず…。しかもくらげ展終盤はなかなか生体を展示できず、見に来てくださった方々、すみませんでした…。体感ですが、今年は(※私たちにとって)風向きが悪く、近くの砂浜にカツオノエボシが打ちあがるタイミングが少なかった気がします。今回これまでとがらっと飼育方法を変えましたので、今年得られた情報を来年に活かして、今後も挑戦を続けていきます!

さて、そんな感じで今年は展示であまり結果が出せなかったのですが、本種についてみなさまにビッグなニュースがあります。最近、東海大学(生物学科)、東京大学(大学院理学系研究科附属三崎臨海実験所)、アメリカのイェール大学と共同研究を行い、「カツオノエボシの繁殖」に関する論文を出すことができました。今回はその内容について紹介していきます。
その論文は、10月4日から学術雑誌である「Scientific Reports」に掲載されており、論文のタイトルはPhysalia gonodendra are not yet sexually mature when released(直訳:カツオノエボシの生殖枝はリリース時には成熟していない)です。無料で読めます!
本研究は東海大学生物学部生物学科講師の小口晃平博士を中心に、国際的な共同研究として行われました。
小口博士と言えば! クラゲサイエンスの標本コーナー(現在はマイクロプラスチックの展示をしているところ)で、一時期(ほんのり)色の残ったカツオノエボシとギンカクラゲの標本を展示していた際に参考にさせていただいていた論文の筆頭著者の方です。今回も私たちが採集したり飼育したりしていたカツオノエボシについて、私たちだけでは到底できないレベルの観察や分析をしてくださり、一つの形(論文)にしてくださいました。
さて、今回の研究では、カツオノエボシの繁殖に関わる部分である「生殖枝(Gonodendron)」に着目しています。

この白い粒々の塊がカツオノエボシの生殖枝。カツオノエボシは世界的に有名ですが、繁殖に関してはほとんど何もわかっておらず、「この部分が繁殖に関わっている(だろう)」ということは昔から言われていました。でも実際のところどうなんだ?ということを明らかにしたのが今回の研究のきっかけです。カツオノエボシを飼育していると、この生殖枝をボロッと塊で落とすことがあります。この生殖枝にある生殖体が本当に卵や精子を作っているのか…これを小口博士が詳細な観察で明らかにしてくれました。

組織観察の結果、生殖体は「上皮」、「生殖細胞層」、「胃腔(消化管)細胞」の3層からなる複雑な構造をしていること、そして明確な配偶子(精子や卵)は確認できませんでした。
そこで、フローサイトメトリーという手法を用いて核相解析(予備実験として近縁のヨウラククラゲでも行いました)を行なった結果、カツオノエボシの場合は生殖体内から、減数分裂してDNA量が半分になった半数体の細胞(精子や卵など)が検出できませんでした。また新型コロナウィルス検査などで有名になった定量PCR法を用いることによって、減数分裂の初期段階(減数第1分裂前半)で働く遺伝子が使われていることが明らかとなりました。

つまり?????
カツオノエボシが生殖枝をボロッと落とした瞬間、受精しているどころか、精子や卵すら作られていない未成熟の状態であることが分かったのです。

これを実際の海で想像すると…外洋で生活するカツオノエボシが生殖枝を落とす→生殖枝は移動能がほぼないため、重力に逆らうことなく沈んでいく? →海の深い所(⇒水温が低い所? 光が届かないところ? )で成熟し、精子や卵が作られる? →何かしらの方法で受精し幼生が発生していく?
というように、条件を考えながら色々検証することができます。暗闇の中手探りで行なっていた「カツオノエボシ繁殖チャレンジ」を、科学的な根拠をもとにスタートできるのです!!
こういう私たちトリーターだけではできないレベルの観察や研究を、大学や研究機関とコラボレーションすることで、新たな発見に繋がる…。本当にありがたいことで、うれしすぎてなんだか心が震えます。

今年はもう江の島の周りにカツオノエボシが来なさそうな雰囲気ですが、来シーズンに向けて今後の研究計画を練っておこうと思います。えのすいでは本種の飼育技術を向上させ、さらなる長期飼育と繁殖、そして最終的には世界初の常設展示を目指していきます! 来年が今から楽しみです。
今回出た論文は無料で読めますので、ぜひ読んでみてください!

クラゲサイエンス

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