2025年01月10日
トリーター:石川

「グー」

2024年12月18日、メスのフンボルトペンギン「グー」が亡くなりました。12月24日クリスマスイヴが誕生日でしたが、23歳の誕生日を迎えることはできませんでした。残念です。

「トップ」との間に「ナイス」、「グット」という子どもが生まれましたが、「トップ」が子育てをうまくおこなえず、どちらも他の個体に育ててもらいました。何度もこの番(つがい)で孵化にはこぎつけていたのですが、自身の子を自ら育てることはかないませんでした。
2021年に「グー」の子が亡くなったときの「グー」の落ち込みは見ていられないほどでした。これだけ母性が強いのならと、当時自身で育てられる環境が整っていなかった「マリー」の子、現在の「リリー」を、育ててもらうことにしました。最初は「トップ」も一緒に子育てに参加させるつもりだったのですが、やはり雛の扱いになれておらず、「トップ」の介入なしで、「グー」1羽で育ててもらうことにしました。「グー」が水浴びや餌を食べに巣を空ける際は私たちが雛を見守るという形でおこない、みごとに「グー」1羽で「リリー」を育てあげました。

これまでにも何度かお伝えしていますが、仲睦まじい番(つがい)が必ずしも子育てが上手なわけではないのです。野生のペンギンの調査報告でも、餌をとるのが上手な番(つがい)が必ずしも子育ての成功率が高いわけではないとの話も聞いたことがあります。

「リリー」は孵化してすぐに嘴(くちばし)が折れ曲がりそうになっていて、摂餌が思うようにできませんでした。当初は、雛へ餌を与えたことがない「グー」の経験不足のせいで上手に餌を与えられず、大量に吐きこぼしてしまうように見えていましたが、後に「リリー」の嘴(くちばし)に異常があるのがわかり、ちゃんと食べられない「リリー」が「グー」が吐き戻して与えたものを上手に食べられず全てこぼしてしまっていたという状況のようでした。「グー」は食べたものをすべて吐き戻しても、また食べ、「リリー」が上手に食べられるようになるまで、根気よく餌を与え続け、立派に育て上げたことがわかりました。
「グー」の性格を表すような母性本能と、ある種の意地みたいなものも私は感じました。

「グー」は、若いころから周囲の観察力に優れていて、10年くらい前までは、他の個体が落とした魚の 7割は「グー」が拾って食べていたように思います。落としやすいペンギンや落としやすいトリーターをちゃんと見ているようでした。
また、この観察力は警戒心の強いところにも関連しているようで、何かの治療などで他のペンギンを捕獲したり、「グー」自身が治療や検査などで捕まる予兆をいち早く察知する感覚にもたけていて、そういうときは餌の時間でも寄って来ないなど、早く治療や検査をしてあげたいのになかなか捕まえられないということも多く、手を焼いた記憶があります。
今回の治療では毎日注射を打つことも多かったので、最初私たちも 1週間ほど続けたら捕獲できなくなるのではないかと思っていて、網を入れて強制的に捕獲したり、他の個体とは別に隔離して飼育しなければならないかもしれないと思っていました。
でも実際には、9月から治療をはじめていたのですが、1日も治療や検査ができなくなったことはなく、「グー」はどんな治療も検査も受けてくれました。
また、どうしてもこういった場合、個体が衰弱していくどこかの段階で他個体から隔離して飼育しなければならいことが多いのですが、ペンギンはとっても仲間意識が強く、一緒にいることで安心したり、自分の縄張りにいることで、落ちつけたりするのです。今回「グー」は最後の日の朝まで番(つがい)の「トップ」といつもの寝床で、他個体がいる中で、いつも通りの状態で一緒に過ごすことができ、最後の時も「トップ」と一緒にいることができました。

最後まで「グー」らしかったと思います。

ひとくくりに「ペンギンたち」といってしまうことが多いのですが、いつも一羽一羽にいろいろなことを教えてもらえて私たちも成長できています。

昔は死亡してから“がん”だったということがわかって治療などがうまくできない時代もありました。今でも詳細をつかむのは難しいですが、事前の検査から状態が把握できて、それに対して治療を始められる時代になっています。
いつももっと早くわかっていればと亡くなってから思ってしまいますが、確実に昔より早くわかるようになって、最先端のさまざまな検査や治療ができるようになってきました。

まだまだ弱力かもしれませんが、「グー」の死を無駄にせず少しずつでも前へ進めるように努力していきます。

23年近い間、「グー」を見守っていただきありがとうございました。

ペンギン・アザラシ

RSS