ここ数年、メンダコの搬入が少なく、なかなかメンダコチャレンジを掲載するチャンスがありませんでしたが、今年度は「 えのすいの深海展 」を開催していることもあり、いろいろな試みで展示飼育に取り組むことになりました。
メンダコの飼育が難しい点はいろいろありますが、一番の壁になっていることはその採集方法だと思っています。メンダコのように水深が深く、海底で単独で生活していると思われる生物の収集方法はとても限られています。
どうやってメンダコが採集できているかというと、それは底引き網漁に乗船して採集しているからです。
この底引き網漁はメンダコを獲るためではなく、私たちが食べるための深海生物であるアカザエビ(駿河湾では手長エビと呼び高級深海生物)やチヒロエビの仲間(お刺身や揚げ物になる)、ユメカサゴやアンコウなどを漁獲するために操業されています。
メンダコは、その底引き網漁の混獲生物なのです。
混獲とは、本来の漁獲対象生物とは違う生き物が意図せずに入網してしまうことです。
そういったことから、メンダコが入網することもとても稀で、さらに海底から上がって、船の上に広げられるまで、エビなどのトゲに刺ささらず、傷の無い状態でいるということは、さらに珍しいということなのです。
メンダコはぷるぷるでとても柔らかく、傷がつきやすい体をしています。まるで、とても柔らかい水枕のようです。
この最初の壁をクリアしてからが私たちトリーターの仕事であり、腕の見せどころというわけです。
今回のメンダコチャレンジ 2024-2025 では、この壁をどうにかクリアしたいというチャレンジでもあります。
「チャレンジ その1」は、底引き網漁でのチャレンジ、「チャレンジ その2」は、水中ドローンでのチャレンジです。
きょうは、「チャレンジ その1」の底引き網漁でのチャレンジについて紹介します。
海の中での出来事は難しいですが、船の上であれば工夫することができます。
船の上に大きめのたらいを使って、その中にあらかじめ冷水を入れておいて、網ごと入れてから広げるという方法です。
こうすれば、メンダコなどの深海生物が大気中に暴露されて、酸欠や大気中の重力によって折り重なることを軽減することができます。
1月中旬の漁では、幸運にもメンダコが入網して、たらいの海水の中で発見することができました。
発見したメンダコは、100円ショップなどで売っている味噌ケースを細工しメンダコ専用に製作した個別の暗室に収容して、大切に水族館の展示水槽まで輸送をしましたが、体に傷があったこともあって、数日の飼育に終わってしまいました。
輸送の時も大型の保冷力の高いクーラーを導入して、できるだけ水温の変化を最小限にしながら輸送を試みましたが、残念です。
今回のメンダコは残念に結果になりましたが、この試みによって大きさが5~6cmのダンゴイカの仲間やセンジュエビ、ワヌケフウリュウウオなど、普段であれば1週間飼育できるかどうかという深海生物を元気に持ち帰ることが可能になり、さらには「えのすいの深海展」用に作製した 12個の小型水槽を並べた “ 深海生物水槽 ” に展示することができました。
このチャレンジの恩恵もあって、いろいろな深海生物を状態良く水族館に飼育することができています。メンダコチャレンジが、その他の貴重な深海生物のチャレンジにも繋がっていることを肌で感じました。
深海生物のシーズンはまだ続きます。
メンダコチャレンジはまだまだ続きますが、ぜひそのほかの深海生物にも目を向けてみてください。
次回は、水中ドローンによる「チャレンジ その2」を紹介しようと思います。
お楽しみに。