2025年03月25日
トリーター:櫻井

えのすい20周年 ~生き物たちへの感謝~

20周年企画ということで、これまでの飼育員人生を振り返ってみました。

私が海への道に進もうと決意したのは、大学生のころです。
それまでは動物園に就職したいと思っていました。
大学で海洋学を学び、素潜りで魚を採集するという経験があり、この道に繋がっています。
他の理学部に行っていたら、えのすいトリーターにはなっていなかったかもしれませんね。

当時そこまで魚に興味が無く、ハリネズミやうずらなどを飼育していた私は、季節来遊魚(当時は死滅回遊魚と呼ばれていました)という魚たちを知り、彼らの生きざまに魅了され、海の神秘にのめり込んでいきました。

季節来遊魚というテーマは割と取り扱いやすく、かつメッセージ性の強いテーマであり、他の園館でも展示していることは珍しくありません。 私がまだ若手だったころ、他の園館の展示を見て衝撃を受けたことがありました。
それは、北海道に出張に行ったとき、その地域の季節来遊魚として「ハナオコゼ」を展示していたのです。
ハナオコゼは、関東域では普通に見られる、流れ藻などによくくっついている魚です。
地域が変われば生息する種も当然変わり、流されてくる種、つまり季節来遊魚と定義される種も地域によって異なるのだと、客観的に考えれば当たり前なのですが、『季節来遊魚といえば南方から流れてくるきれいな魚』という印象で凝り固まっていた私には、これまでの季節来遊魚の概念が がらっとひっくり返される大事件でした。

時事的に例えれば、天動説から地動説を信じろ、くらいの根本的概念の方向転換でした。
『太陽が昇るのではなく我々が下るのだ』と言われたような衝撃です。

20数年、季節来遊魚に関わってきて、今、まだ、さらに、季節来遊魚の概念は変わりつつありあります。 今まで流れてこなかったような珍しい種が毎年のように何種も流れてきたり、越冬して成魚の状態で翌年見つかったり、無効分散の意味合いを持たない種が増えてきています。
生息域がどんどん北上し、季節来遊魚と呼ばれる種が急速に減っていくのか、季節来遊魚という言葉の意味合い自体が変わっていくのか。
今まさに過渡期にある彼らの生きざまを、近々にはその行く末を見届けることはできないかも知れませんが、今、共に歩んでいます。

季節来遊魚から始まった私の水族館人生は、今後も季節来遊魚に翻弄され、季節来遊魚で締めくくることになりそうです。
共に歩ませてもらっている季節来遊魚たちに感謝です。

トゲチョウチョウウオ
関東域での代表的な季節来遊魚。
数年後、関東での普通種、北海道での季節来遊魚になる可能性も。


ハナオコゼ
関東域では普通種。北海道での季節来遊魚。
数年後、北海道での普通種になる可能性も。

相模湾ゾーン

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