2025年07月11日
トリーター:小森

出会いと別れ

この 7月までに出会いと別れを経験しました。

出会い。
知っている方はいるのかな?
当館生まれの今年で 7歳になるアオウミガメ「ウチワ」が 4月に九州へ旅立ちました。

私が「ウチワ」と初めて関わったのは「ウチワ」が 5歳のとき。
まだ 15kgほどのあどけなさの残るアオウミガメでしたが、年を経るごとに物怖じしない性格に拍車がかかり、ごはんの際には果敢に先輩ガメの中へ割り込んでいき、吹っ飛ばされても負けないガッツを見せてくれました。
そしてほんとうにいい子で、何度陸場に取り上げて健康診断をおこなっても、何事もなかったかのようにすぐに寄ってきてごはんのおねだりをする、飼育スタッフとしては非常にありがたい性格をしているウミガメです。

そんな愛嬌たっぷりな「ウチワ」は現在、大分マリーンパレス水族館「うみたまご」で新たなアオウミガメたちに出会って過ごしています。
搬出のために「うみたまご」のスタッフさんはかなり入念に下調べをしてくださり、「ウチワ」が無事に福岡へ行けるようにたくさんの準備をしてくださいました。
搬出のようすはこんな感じ。
水分たっぷりのふかふか水苔ベッドを用意してくださり、暴れて怪我をすることがないよう体はお手製ウェットスーツで保護。

「ウチワ」はというと、あっという間に落ち着いて大物感を醸し出していました。

移動方法はなんと陸路! 福岡からはるばる「ウチワ」のために、行きは12時間ほどかけて車で“えのすい”へ来てくださり、帰りは「ウチワ」ファーストで休憩を取りながら安全を期して運んでくださいました。
本当に感謝です。

「ウチワ」の旅立ちは“えのすい”の私たちにとっては“別れ”かもしれませんが、「ウチワ」にとっては新たな門出、「うみたまご」のスタッフさんや「うみたまご」のアオウミガメたちとの“出会い”です。
成熟するまであと20~30年かかりますが、新しい仲間たちと遠い未来で血をつないでくれたらとてもうれしいです。
行ってらっしゃい、これまでありがとう!

ちなみに、「うみたまご」では一番体は小さいけど勢いは一番強いそうです…笑
現在、「うみたまご」ではウミガメ展示水槽の補修工事中だそうで、今すぐ「ウチワ」に会うことはできませんが、展示水槽が完成したらみなさんも「ウチワ」に会いに行ってあげてくださいね。



別れ。
先ほどの「ウチワ」は当館のメス「ノンキ」とオス「シロ」から生まれたアオウミガメです。その「シロ」ですが、先月その生涯を閉じました。

当館へ保護された際の詳細なデータが残念ながら残っていないためはっきりとした年齢は不明ですが、1970年に保護されたため飼育歴は55年となります。
当館に来た時にはすでに大きかったそうなので実際は60歳、70歳、80歳の可能性もあります。
ウミガメの寿命はまだはっきりとわかっていないため長生き、とはいえないのかもしれません。それでも長い間“えのすい”を支えてくれたウミガメであることには変わりありません。
当館スタッフの中では「相模湾大水槽を泳いだウミガメ」としてでも有名でした。

とても穏やかな性格で賢く怖がりでもあるため、健康診断をおこなうときには前々から察知して遠巻きに警戒する姿もありました。
そんな怖さを軽減したいとターゲットトレーニングを開始すると、すぐに理解し健康診断にも落ち着いて応じてくれるように。ただ、そのあたりから体調も崩すようになりました。
それでもようすを見にプール掃除へ向かうと、初めて出会ったときは寄り付きもしなかった「シロ」が足元まで来て体を預けて「甲羅をこすって」と催促してくるのが日課に。
大丈夫? しんどいよね。よく頑張ってくれてありがとうね。といつも話しかけながらデッキブラシで擦ったり、手で撫でたり、ゆったりとした時間を過ごしました。

最期の日は私は出勤日ではなかったのですが、陸に上がり眠るように亡くなったようです。
ウミガメは肩の骨から年齢査定をすることができるようで、現在、先輩トリーターが関係各所に連絡を取って年齢を確認できないか動いています。
もし無事に知ることができたらみなさまに「シロ」が生きた証としてお伝え出来たらなーと思っています。
真っ黒な甲羅に白い手足と太くて長い、すこーし曲がったしっぽが特徴的だった「シロ」。
どうぞ、みなさん忘れずに、お疲れさまでしたと想っていただけるとうれしいです。

小田急電鉄の片瀬江ノ島駅に「シロ」が気持ちよさそうに泳いでいる広告幕もあるので、電車で来館の際には駅に着いたときにちょっとだけ目線を上にあげて「シロ」の姿を見つけてみてくださいね。

ウミガメの浜辺

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