みなさま、ツキヒハナダイを覚えていますか。
展示当初、相模湾からは正式な記録がないとして紹介していました。 その個体は今も “えのすい” で元気よく泳いでいます。
先日、魚類研究者からツキヒハナダイの論文が出版され、分布情報が更新されました。
それによると相模湾が北限とされています。
分布情報の更新など報告をする場合、一番望ましいのは、公的な収蔵機関に保存された標本に基づく論文の形で報告だと考えています。
例えば、えのすいのホームページに 初記録! と出すだけでは不十分で根拠が乏しいです。 なぜならネット情報は数年で消えてしまう可能性が高く、過去の情報が追えません。 また論文中に画像だけで分布記録を報告する場合もありはしますが、画像からわかる情報には限りがあり、標本が伴っていないと再現性が担保されません。 具体的には、研究が進むにつれ、当時思われていた種とは異なる可能性もよくありますが、その際に、標本でないと確認できない識別点がある場合も多くあります。
また、現在は SNS などで素人でも簡単に情報発信できてしまいますが、なかには誤った情報も多くあります。 その点、論文は客観的なデータなどの事実を根拠に論じるもので、多くは研究者による査読を経て世に出版されます。
今回の論文ではもちろん標本(画像も含めて)に基づいて(えのすい展示個体ではありません)、詳細に報告され、生態的な面についても議論されています。
水族館展示と標本化については個人的には悩ましい所で、水族館という施設の特性を活かして、生きている姿を多くのみなさまに見ていただきたいという気持ちがあります。
一方、未来永劫残せる標本の形で保存しておく必要性も理解しているつもりです。
結局ケースバイケースですが、常に今その状況でできる限りのことをやっていきたいと思います。
論文を見ると、どうやら相模湾からは水深 95m以深で 7個体が報告されています。
展示個体は「相模湾で報告がなかった種」ではなくなりましたが、ツキヒハナダイの展示意図がなくなったわけではありません。
現在生きたツキヒハナダイを見ることができる水族館は限られています。 普段見ることのない、深い水深にいるそのきらびやかな姿をぜひ見に来てください。