2026年07月03日
トリーター:山本

世界最大級のポリプ「オトヒメノハナガサ」について

標本や生体展示とやたら盛り上がっているけど、そもそも「オトヒメノハナガサ」って一体何…! という方のために、改めて補足の説明をさせてください! オトヒメノハナガサ、その正体はずばり、深海で暮らす「巨大なクラゲのポリプ」です。

分類:ヒドロ虫綱 花クラゲ目 オオウミヒドラ科 オトヒメノハナガサ属
学名:Branchiocerianthus imperator
和名:オトヒメノハナガサ

オトヒメノハナガサ属( Branchiocerianthus )は、水深 200 ~ 5,000 m を超える深海の海底に生息するクラゲの仲間で、現在 7種が知られています。長い茎の先に花のように広がる触手をもち、その不思議な姿はいかにも謎に包まれた深海生物という感じ。なんと、今年のドラ○もんの映画のポスターにそれらしきものが描かれているようで、深海生物好きの方なら知っているかもしれませんね。世界でも採集例は数えられるほどしかなく、その生態については未解明な点ばかりです。
「巨大なクラゲのポリプ」と言いましたが、この仲間の生殖体としての「クラゲ」はいずれの種でもまだ見つかっていません。そもそもちゃんとしたクラゲが出てくるのか、それとも放卵放精をするためだけの不完全な形をしたクラゲみたいなものがつくられるのか、それすらわかっていないのです。

その中で、最も大きく(なんと最大 2 m 24 ㎝! )成長する「オトヒメノハナガサ( Branchiocerianthus imperator )」は、日本周辺海域や北太平洋、ソマリア沖、モザンビーク沖、大西洋、アイルランド南西沖などから報告されています。種として記載されたのはそこそこ古く、1885年です。かの有名なイギリスの調査船であるチャレンジャー号の航海の中で採集された、日本近海および北太平洋産の標本をもとに、Allmanによって(※もともとは Monocaulus imperato rという学名で)記載されました。詳しく調べてみると、実はそれよりも数年前の 1875年には Allmanによってその存在が報告されていたようです。

私も標本と生体を観察して初めて知ったのですが、このオトヒメノハナガサ属のヒドロ花は、一般的にイメージされる花のように、中心から放射状に広がっているわけではないのです。左右相称といって、体の真ん中に線を引いたとき、左右がほぼ鏡に映したような形になっている体のつくりをしています。これは他のオオウミヒドラ科と見分けるための大切なポイントとなるようです。

本属の分類は、まだ DNA解析などができなかった時代に記載された古い種であることもあり、大変混乱しています。「特徴的にはそうだけど、どうしても言い切れない… 」という感じで、えのすいでは展示で「オトヒメノハナガサ」ではなく「オトヒメノハナガサ属の一種」としてしまっています。正直力及ばずです。

貴重貴重とは言っていますが、実はここ数年の株式会社 FullDepthとともにおこっている深海生物調査の中で、相模湾でもこの仲間がたびたび見つかっています(水中ドローンって本当にすごい!)。海底で生きているようすも撮影することができており、情報は確実に増えている状況です。
とはいえ、野生でどんな餌を食べるのか、どうやって増えているのか、どんな種類がいるのかなどはすべて謎に包まれたまま。要は未だに「深海に生息している巨大なクラゲのポリプ」であることくらいしかわかっていないのです。さて、今回採集されたオトヒメノハナガサ属の一種は、私たちにどんなことを教えてくれるのでしょうか… !

クラゲサイエンス

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