
「寄生虫」と聞くとどんなイメージがわきますか? うねうねするちょっとマイナスなイメージ(気持ちはわかりますよ)? 以前あの有名な 「ハリガネムシ」について日誌を書きました が、私にとって寄生虫は、クールに宿主を利用しながら生活史をまわし、陸でも海でも生態系の一部としてさまざまな生物と関わっている、魅力的で、すごくて、かっこいい生き物だなぁと思っています。「すべての動物には寄生虫が付いている」といわれているのですが… 私が主に担当している「クラゲ」は、どんな寄生虫と関わっているのでしょうか。
昨年12月、東邦大学や黒潮生物研究所などの研究グループに当館も加わり、クラゲに寄生する吸虫類に関する論文を発表しました。その論文は「Journal of Helminthology」に掲載されており、タイトルは「 Metacercariae infecting seven cnidarian species with their life cycle information including their adult stages in Japan(日本産7種の刺胞動物に寄生するメタセルカリアとその成虫期を含む生活環の情報) 」です。
論文が出てから少し時間が空いてしまいましたが、紹介させていただきます! 私も普段関わらない分野だったので、内容の理解がとても難しかったのですが… なるべく簡潔に書けるように頑張ります。
まず「吸虫」とは、扁形動物門、吸虫綱に属する寄生動物の総称で、一生のあいだに複数の宿主(寄生する生き物)を乗り換えながら、成長することが知られています。魚類などの体内で成虫となった吸虫は卵を産み、生まれた幼生はまず巻貝類などの軟体動物に寄生します。その後、再び海中へ放出されて別の生物に感染し、「メタセルカリア」と呼ばれる段階を経て、再び魚類へたどり着くことで成虫になります。
このように吸虫類は、複数の宿主を渡り歩きながら、生活環を完成させています。しかし、海洋に生息する多くの吸虫類では、魚類へ到達するまでにどのような生物を利用しているのか、その詳細は十分に解明されていません。
そこで、吸虫が魚に寄生して成虫になる前の「中間宿主」として、クラゲの存在に着目してみた! というのが今回のお話です。
本研究は 2段階に分かれており、まずはカツオノエボシやウラシマクラゲなど 8種類のクラゲに、どのような吸虫のメタセルカリアが寄生しているのかを調査しました。

その結果、調査した 8種のうち、ギンカクラゲを除く 7種(※今回の研究で使用したクラゲたちそのものの写真ではありません!)のクラゲから、9種のメタセルカリア 325虫体を得ることができました。これは、クラゲが吸虫類の生活環において例外的な存在ではなく、むしろ非常に一般的な宿主であることを示しています。そして、それらの「メタセルカリア」と、過去に魚から得られた「成虫」の DNAを比較すると、クラゲのメタセルカリア 9種のうち 6種が海産魚に寄生することが分かり、残りの 3種も海産魚に寄生するグループに含まれることが分かりました。
次に、宿主となることが分かった海産魚(やその近縁種)たちの食性を、過去の文献などから調べたところ、コバンザメとトビウオ科の一種を除く 12種中 10種の魚はクラゲ類を食した記録があり、その摂餌を通して吸虫に感染した可能性が高いことが分かりました。
つまり、今回の研究の結果から、「クラゲ→魚」のルートで吸虫類が感染している可能性が高いということが分かったのです。そもそもこれまで、クラゲってあまり魚には食べられないと考えられてきたのですが、近年の遺伝子解析の技術によって、意外と魚にも食べられていることが明らかとなっていました。今回は寄生虫の目線からもそれが裏付けられたような感じですね。そして、謎多き吸虫類たちの生活環の一部を解明することができたのです。
さらに論文の中では、クラゲの体から見つかった吸虫たちには新たな和名が提唱され、それぞれの形態や生態が記載されています。それに加えて、先行研究でクラゲから見つかっていたにもかかわらず、種が不明とされていたメタセルカリアの一部も、今回の DNA解析で種が特定されました。私のお気に入りはこちら。

Tetrochetus coryphaenae → クラゲビードロキュウチュウ
クラゲと名の付く吸虫。終宿主がシイラなどの大型魚であることが知られています。今回はカツオノエボシとカツオノカンムリから見つかりました。

Dinurus tornatus → マヒマヒキュウチュウ
「マヒマヒ」とはハワイ語でシイラのことを表します。かわいくて口に出したくなる名前です。今回はカツオノエボシから見つかりました。カツオノエボシは寄生虫が多いんですね!

Dinurus barbatus → ヒゲアリマヒマヒキュウチュウ
種小名のbarbatusはラテン語で「ひげのある」とか「毛深い」という意味のようで、その名の通り「ひげ」のような構造(写真で拡大されている部分)を持つ、マヒマヒキュウチュウの仲間です。同じ種小名が植物でよく使われているようですね。今回の研究ではシイラから成虫が見つかり、DNAの比較によって、かつてオーストラリアのギンカクラゲやカツオノカンムリから出た謎のメタセルカリアと同種だったことが分かりました。
この研究を通して、生態系は「食う‐食われる」の関係だけでなく「寄生する‐寄生される」という関係によっても複雑につながっているんだということを、改めて感じました。新しい視点で世界が広がった気がします。
準備ができ次第、クラゲサイエンスの標本コーナーでも、今回の研究についての展示をしようと考えていますので、ぜひご覧いただけたらうれしいです。
最後に、今回研究を中心的に進め、論文を作成してくださった 東邦大学の脇先生のブログ の紹介をさせてください(今回の日誌のタイトルは脇先生の真似をさせていただきました!)。私は脇先生の優しくて面白い文章が大好きです。寄生虫に興味のある方はぜひご覧ください。