2007年08月30日

伊豆・小笠原弧、明神海丘・明神礁・べヨネーズ海丘(5)8月30日 木曜日 晴れ
深海調査航海NT07-17 ~未だ知られざる熱水噴出域を求めて~
7日目:上がってきたサンプル

  • 期間:2007年8月24日~ 2007年9月2日
  • 場所:伊豆・小笠原弧、明神海丘・明神礁・べヨネーズ海丘
  • 目的:明神海丘、明神礁、べヨネーズ海丘における熱水鉱床探査
  • 担当:根本


前回ではハイパードルフィンの紹介をしました。きょうはハイパーが船に上がってきたあとの話をします!
もちろんハイパーが海底で作業している時、研究者も一緒にコントロールルームに入って「ここに行ってくれ!」「あれ採ってくれ!」といろいろリクエストする仕事があるけれど、本当の仕事はむしろサンプルが上がって来てからなのだ。
今回は岩石、化学、生物といろいろな分野の研究者が乗っているので、それぞれがいろんな分析をしている。ここでは生物の分野の研究者のサンプルの処理について紹介します。

運航長
「デッキ総合指令室、離底時刻 16時20分」

トランシーバー
『離底時刻 16時20、浮上予定時刻 15時15分』


コントロールルームで運航長がトランシーバーで離底を報告すると、研究者たちは後ろ側に並んでいる研究者用の椅子から立ち上がりワラワラとコントロールルームから出てゆく。サンプルを回収する下準備に向かうのだ。
離底から水面まで上がるのに水深にもよるけれど、1000m前後ならば 30~ 40分くらいで浮上してくる。
サンプルが上がって来てからが研究者は忙しい!まず、ハイパードルフィンが浮上してくるまでにサンプルをハイパードルフィンから船内の研究室まで運ぶ準備が必要だ。
浮上してサンプルが上がってくるまでに、各自サンプルを回収する準備しなくてはいけない。
また船内の食事は 5時で、サンプル回収の時間の前後になることがほとんどだ。回収の前ならば夕飯のおかずと食堂のモニターを交互に見つめつつ、
「あ!やばい!あと 30mだ!いそげ いそげ!」
なんていいながら夕飯をかきこむ。回収の後になってしまうとご飯を食べるタイミングを計るのが難しい。やり始めてしまうと途中やめられなくなってしまうのだ。
今回の航海はわりと余裕があるので、急ぐことは少ない。なにせ生物中心の調査ではないため生き物があんまり上がってこないから・・・ 。

さて、生物屋はまずは深海の生物を元気が良いうちに研究室に運ばなければならない。 8月の伊豆・小笠原は暑い、海の表層の温度は 30℃近くなっている。深海の生物にしてみたら温度差 26℃だ。
夏の深海調査は生かして回収するのがむずかしい。まともに 30℃の海水に浸かったら深海生物なんてイチコロだ。幸いハイパーに取り付けてある生物採集容器の多連キャニスターは密閉されてないものの、大容量で水の出入りが少なく 12℃くらいまでしか水温が上昇しない。コシオリエビなど水温の上昇に弱い生き物は死んでしまうが、ユノハナガニならへっちゃらな温度だ。

ハイパードルフィンがAフレームというクレーンにつるされ始めると、研究者はハイパードルフィンにジワジワ近づいてゆく。生物の研究者はバケツを 3~ 4個とバット(容器)を両手に持って行く。バケツには 4℃に冷やされた水が入っている。
ハイパードルフィンが固定されると、各研究者は砂糖に群がる蟻のようにサンプルに集まる。採れた生物は、キャニスターにセットしている採集ボトルごとバケツに突っ込んで急いで研究室の低温室運んでゆく。
支援母船「なつしま」には深海生物の飼育ができる低温室があり、ここに水槽を設置し 4℃まで冷やすことができるのだ。研究室に持っておこなったサンプルはまずその種類を同定することから始まる。しかし、これが難しい。
エビカニから貝やゴカイ、魚と多種多様で図鑑にもあまり登場しない生き物が多く、新種の可能性もあり、研究者の専門の生物以外は“何々科の仲間“くらいまでしかわからない。
より分けたら、写真を撮ったり数を数えたりして、最終的にはほとんどが冷凍かエタノール漬けになり、採集日時や場所などを書いたカードが張り付けられる。実際は生かしたまま持って帰る事はあまりないのだ。よって生態などの情報は深海で観察する時の数分くらいで得られるデータしか得ることができない。
そこで“えのすい”が登場する!
えのすいトリーターが乗船した時には、水槽やろ過機などを持ち込み、低温室に飼育場所を作って、冷凍やエタノール漬けになる前に長期飼育の研究に回す生物を確保して船上飼育し、水族館に持って帰るのだ。
最近では新鮮なサンプルを使いたい研究者も多く、船上飼育員として誘いを受けることも多くなった。今回も学生時代の先輩で、今は研究者の方に誘われ乗船している。

船上ではこのような感じでサンプルの処理をしています。

[きょうの写真]
1 Aフレーム
2 釣りあげられたハイパー
3 ハイパー到着を待つ研究者
4 採水機を処理する研究者
5 生物の仕分け中

1 (C)JAMSTEC1 (C)JAMSTEC

2 (C)JAMSTEC2 (C)JAMSTEC

3 (C)JAMSTEC3 (C)JAMSTEC

4 (C)JAMSTEC4 (C)JAMSTEC

5 (C)JAMSTEC5 (C)JAMSTEC


海洋研究開発機構(JAMSTEC)NT07-17「なつしま/ハイパードルフィン」による明神海丘、明神礁、べヨネーズ海丘における熱水鉱床探査潜航

新江ノ島水族館は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と深海生物の長期飼育技術の開発に関する共同研究を行っています。

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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