5年ぶりの再会
みなさんこんにちは!八巻です。
今回は 2年ぶりに大好きな鹿児島にやってきましたーーー!!
杉村トリーター、山本トリーターと一緒に、きのう・おとといと 2日間かけて、フェリーに乗りつつトラックを運転してきたのです。目的は鹿児島大学水産学部附属練習船「南星丸」への乗船、水中ドローンを用いた採集です。わざわざ江の島から鹿児島までトラックを運転して水中ドローンを持ってきた理由は、持ち帰る予定の大きなものがあるからです。
その持ち帰る予定のものとは、「鯨骨」とそれに付着した「サツマハオリムシ」です!
実は当館は 5年前からかごしま水族館と共同で、鯨骨を用いたサツマハオリムシの持続可能な展示を目指した取り組みをおこなっています。かごしま水族館ではすでに成功している取り組みで、鯨の骨をサツマハオリムシの生息域へ沈設、数年後に回収することで、鯨骨に付着した新規個体群を採集、そのまま骨ごと飼育・展示するというものです。
鯨骨はそれ自体に脂質が多量に含まれており、分解される過程で硫化水素が発生します。そのため、熱水噴出域や湧水域と類似した硫化水素が豊富な環境が形成され、鯨骨生物群集と呼ばれる独自の化学合成生態系が形成されます。
サツマハオリムシもいわゆる化学合成生態系を構成する生物のひとつです。体内に硫化水素を使って栄養を合成するバクテリアを共生させており、口や消化管がありません。かわりに周囲の硫化水素を体内の共生バクテリアに与えることで、そのバクテリアが作る栄養に完全に依存して生きています。また、サツマハオリムシは浮遊幼生期が終わった後、海底に固着してチューブ状の棲管を形成し、そこから離れることはありません。
鯨骨はサツマハオリムシを付着させる基質になるだけでなく、滲出する硫化水素がサツマハオリムシの“えさ”となるため、鯨骨にサツマハオリムシを付着、回収することにより、サツマハオリムシを傷つけることなく、鯨骨だけで飼育することが可能となるのです。
この方法では、鯨骨に付着するのは沈設後に出現した新規個体群であり、寿命が190年以上ともいわれる鹿児島湾オリジナルの個体群を採集する必要がありません。つまり、サツマハオリムシのような特殊な生態を有する生物について、「鯨骨」を用いることで生息域オリジナルの個体群を維持したまま、採集をおこない、持続可能な飼育・展示を可能にするということが、今回の取り組みの肝ともいえる部分です。
とはいえ、目印のない水中の設置物を探すのは本当に難しいのです。船の座標はGPSで知ることができますが、水の中に電波は通りません。したがって、水の中の正確な位置を知るには、船の座標から音響装置を用いて水中の目標物の相対的な位置を割り出す必要があります。そして、どれくらいどの方角に離れているのかという情報をもとに船のGPSを基準に目標物の位置を決めるという測位装置が必要です。もちろんこれを実現するためには水中の目標物から音波を出す必要がありますので、鯨骨全部にこのようなものを設置するのは現実的ではありません。水中ドローンに取り付けるにしても、実は非常に高価なもので水中ドローンがもう 1台買えてしまうほどですから到底かないません。
したがって、測位装置なしの水中ドローンで潜航、骨を見つける必要があるわけです。実は水中ドローンをはじめとする小型のROVは見えている範囲がごくわずかで、数メートル離れた先にあるものでさえ見分けるのは困難を極めます。目と鼻の先に目標物があっても正面に無いと見逃してしまうこともしばしばなのです。
このように水中ドローンを使って骨を見つけるのは非常に難しいですが、ものは試し、今回は杉村トリーター特製!とっておきの鯨骨回収用のアームを取り付けた水中ドローンで回収に臨むことにしました。
きょうの出向は 9時。8時半ごろから同乗するかごしま水族館の方 1名と一緒に、骨を回収した後に入れる容器や、同時におこなうタギリカクレエビ採集の道具も積み込みます。
いよいよ出港、鹿児島港から 1時間半ほど走らせ、鹿児島湾湾奥の海底に存在する小高い山の頂点、サツマハオリムシの生息域にやってきました!しかし、海況は決して良くなく雨が降ったりやんだり、風も強い状況です。
いよいよ鯨骨を探すため、水中ドローンを水中へ投入!
たよりになるのは以前鯨骨を沈設した緯度経度のみです。その目印となる座標からできるだけ真っすぐに潜っていけば骨があるはずです。海底につくと、ブッシュと呼ばれるサツマハオリムシのコロニーを多数確認できました。このコロニーはこのサツマハオリムシの生息域に点在しており、そのどこかのコロニーのそばに鯨骨を沈設したはずです。
探すこと 1時間ほど、ようやく何か構造物を見つけました!それは当館が骨を沈設する数年前、かごしま水族館が独自に沈設した鯨骨でした!しかし、設置物が非常に大きいため、水中ドローンで回収することはできません。それから探すこと30分ほど、ついにありました!沈設した鯨骨です!!!骨は全体がバクテリオマットと呼ばれるバクテリアが作る繊維状のものでおおわれていました。
しかし、ハオリムシは見当たりません…これまでの鯨骨を設置した実験では 3年も経てば数十匹のハオリムシが付着していましたので、今回の結果は意外でした。
2時間ほどかけて 5つの沈設した骨の状態を確認しました!しかし、ハオリムシが付着・成長していたのは 1つの骨、しかも付着個体数は「 2」という寂しい結果となってしまいました。
しかし上記の通り、「持続可能な展示」というのはこれからの水族館に求められる大きなテーマであると思っています。
個体数は少なかったものの、無事水中ドローンで鯨骨を回収することに成功した、というのは大きな前進です!水中で鯨骨を探すのも、案外難易度が低かったようにも思えます。
来年以降も同様に観察を続け、この取り組みを続けていきたいものです。
浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら
どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。
打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。
浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。
どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。
鹿児島大学、かごしま水族館との共同研究