2025年07月17日

D-ARK 航海 2025(8)
二度の「ピッグ・ノーズ」探査と深海洞窟調査ライブ中継イベント

  • 期間:2025年 7月 2日(水)〜 8月 3日(日)
  • 場所:九州・パラオ海嶺、大東島周辺海域
  • 目的:深海石灰岩洞窟における遺存種の把握とその分類学的研究
  • 担当:八巻


みなさんこんにちは! 八巻です。
あっという間に調査もほとんど半分が過ぎようとしています。
16日、17日とも 「KM-ROV」 と 「Tripod Finder2 (TPF2)」 で、南大東島の海底 約 420mにある深海洞窟 「ピッグ・ノーズ」 の探査をおこないました。
「ピッグ・ノーズ」 は、その名の通り、二つの大きな穴が空いた洞窟で、「豚の鼻」 のように見えることから、その名前をつけることになりました。


ピッグ・ノーズ


16日、「KM-ROV」 #318 潜航。
「ピッグ・ノーズ」は昨年の調査で最初に発見した大規模な洞窟で、昨年は入口付近でアカサンゴスナギンチャク属の一種の採集や、単体サンゴの観察をおこなっていました。
二つの穴の奥がどうなっているかはとても気になるところですが、昨年 「TPF2」 で右側の穴の入口付近に接近した際、穴の奥からの潮の流れが速く、奥に抜けているであろうことが分かっています。
今回のミッションは、そんな穴の構造を確かめることと、洞窟の奥にいる生き物を観察、採集することです。

早速「TPF2」で「ピッグ・ノーズ」の探査に出発です!

「TPF2」発進「TPF2」発進

まずは左側の奥に抜けていないであろう穴を目指しつつ、入口のあたりで観察や採集をおこないます。
最初に、この洞窟付近で圧倒的に優占しているウデボソヒトデ類とアカサンゴスナギンチャク属の一種を観察しに行きます。
入口の周囲はウデボソヒトデだらけ、穴の天井もウデボソヒトデだらけです。


大量のウデボソヒトデ類


天井もウデボソヒトデ類だらけ

入口付近に近づくと、アカサンゴスナギンチャク属の一種の鮮やかな黄色が目立ってきます。

アカサンゴスナギンチャク属の一種アカサンゴスナギンチャク属の一種

寄ってみるとポリプ一つ一つまでくっきりと見え、とてもきれいです。


アカサンゴスナギンチャク属の一種のポリプ

このアカサンゴスナギンチャク属の一種は、ダメサンゴというサンゴ科八放サンゴの白い骨格を覆っている黄色いイソギンチャクのような生き物です。 ダメサンゴも生きていて、白い骨格のピンク色に見える部分にポリプが入っています。
八放サンゴのポリプは特徴的で、触手は 8本、多くは 8本の触手からさらに短いアンテナのような突起が出ていますので、スナギンチャクやイソギンチャクなど六放サンゴの仲間と見分けることができます。

「ラビリンス」で見つかった八放サンゴ類「ラビリンス」で見つかった八放サンゴ類

しかしこのアカサンゴスナギンチャク属の一種は、まさか別の八放サンゴの骨格にこんなにたくさん付着しているとは思わず、去年初めて発見した時は、研究者の中では骨格を持つ六放サンゴのキサンゴの仲間ではないかということになり採集しました。 しかし採集してみるとポリプは付着しているだけで中身に骨格がなく、ポリプも間近で改めて観察をしてスナギンチャクのものであることが確認され、スナギンチャクの仲間であることが分かったのです。 スナギンチャクはほかの生き物に付着していることが多いので、ダメサンゴの骨格に付着していたのも納得です。
ただ、その後死んでいると思っていたダメサンゴの骨格からもポリプが出てきて、やっぱり八放サンゴ? どういうこと? ということにもなり、とてもややこしい生き物でした(笑
改めて、アカサンゴスナギンチャク属の一種は、黄色いスナギンチャクの仲間で六放サンゴ類に分類されます。 このスナギンチャクはダメサンゴという八放サンゴの骨格に付着して生活をしています。
そのような目で改めてポリプを見ると、より面白く見えるのではないでしょうか。


アカサンゴスナギンチャク属の一種のポリプ

よくよく見ると小さなヤドカリが何匹も乗っています。

その後、昨年の調査で発光することが確認されているアカサンゴスナギンチャク属の一種について、実際に現場で発光するかどうか、確かめてみることにしました。
するとしっかりと発光がとらえられました!



そして目的の左側の穴の奥を探索してみると、あまり奥深くまでは続いておらず、行き止まりになっていて、その手前に右に抜ける穴があることも分かりました。
このことから、「ピッグ・ノーズ」は洞窟というより、大きくあいたトンネルに近いことが分かったのです。
とはいえかなりの距離穴が続いていて、特に天井に特徴的な生き物が見られました。 未知の単体サンゴが多数確認されたり、

天井の個体サンゴ天井の個体サンゴ

割れ目にはハナギンチャク類が確認されたりしました。

天井のハナギンチャク類天井のハナギンチャク類


17日、「KM-ROV」 #319 潜航
翌日の17日は、前日と同様に「ピッグ・ノーズ」で潜航をおこない、南大東島の小・中学校とオンラインでつなぎ、船上、潜航映像を南大東島の子どもたちに見てもらいながら、解説やクイズを実施しました。
この日は前日に確認できなかったタコ類が観察されたり、アカサンゴスナギンチャク属の発光のようすを観察したり、大いに盛り上がりました!


タコ類

ライブ中継イベントのようすライブ中継イベントのようす


オンライン特別授業後、イソギンチャクだと思って採集した生物が、

イソギンチャクと思って採集した生物イソギンチャクと思って採集した生物

実はシンカイウミウシ属というとても珍しいウミウシである可能性が高いことが分かりました。

シンカイウミウシ属の一種シンカイウミウシ属の一種

現場では触角も二次鰓も見えず、まったく違う形をしていたので本当に驚きです。


さて、この日の潜航後、釣り採集でアオスミヤキが釣れたり、ライトトラップではバショウカジキの稚魚がとれたりと、成果の多い一日でした!

アオスミヤキアオスミヤキ

バショウカジキの稚魚バショウカジキの稚魚


本プロジェクトは、日本財団の支援を受けて笹川平和財団海洋政策研究所が実施する「オーシャンショット研究助成事業」により助成を受けたものである。
オーシャンショット研究助成事業は日本財団の助成を受けて笹川平和財団海洋政策研究所によって実施されている。

・JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)KM25-06「かいめい」/「KM-ROV」 D-ARK 航海
・新江ノ島水族館は、JAMSTECと深海生物の長期飼育技術の開発に関する共同研究をおこなっています。

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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