2025年07月28日

D-ARK 航海 2025(13)
大東諸島へ残す希望と「Tripod Finder2」+Cave Cam

  • 期間:2025年 7月 2日(水)〜 8月 3日(日)
  • 場所:九州・パラオ海嶺、大東島周辺海域
  • 目的:深海石灰岩洞窟における遺存種の把握とその分類学的研究
  • 担当:八巻


みなさんこんにちは! 八巻です。
ナマコの大発光を見た翌日の 7月26日、台風の予報が好転し、大東諸島方面へ戻って数日間は調査ができる兆しが見え始め、いちるの望みにかけて大東諸島方面へ向けて回航を始めました。
しかし、翌27日に再び予報が暗転、駿河湾へ引き返すことになり、残念ながら今年度の大東諸島での調査はここまで、以降は来年度へ持ち越すことになりました。

とはいえ、予備海域の駿河湾での調査日はまだ数日残っています。
来年度も続く、この D-ARKプロジェクト 3年目に備えて、できる試験は可能な限りたくさん実施しておきたいところです。
そこで、28日午後におこなった「KM-ROV」#324 潜航では、「ラビリンス」や「ピッグ・ノーズ」で実施予定だった「Tripod Finder2(TPF2)」を使って Cave Camを設置、回収するというオペレーションに挑戦しました。

「TPF2」とCave Camを搭載した「KM-ROV」「TPF2」とCave Camを搭載した「KM-ROV」

今回の潜航では、「TPF2」へ 2つの新たな機器を搭載しました。

「TPF2」の新規搭載機器「TPF2」の新規搭載機器

まず一つ目に、Cave Camを運ぶためのマニピュレーター。Cave Camを運ぶ他にも、生物をつかんで採集する用途に使用できます。

「TPF2」のマニピュレーター「TPF2」のマニピュレーター

そしてもう一つ、スラープガンで吸った生き物のようすを観察するためにキャニスタ内部を見る確認用カメラです。

キャニスタ確認用カメラとキャニスタキャニスタ確認用カメラとキャニスタ

このカメラがあることによって、本当に狙った生き物を吸えたのか確認することができます。加えて、すでにキャニスタに生き物がいるとき、強く吸いすぎて生き物を損傷してしまわないよう、生き物の状態を見ながら吸う強さを調節することもできます。

ということで、今回の潜航のメインミッションは、「TPF2」のマニピュレーターで実際に「Cave Cam」を運ぶこと。そして生き物の状態を確認しながら生物を採集すること、の二つです。

なお、「ドロシー」について、登場を楽しみにされていた方、大変申し訳ございません。
今年度の実調査への投入を予定していたのですが、調整が難航し、活躍の舞台は来年度へ持ち越しということになりました。
来年度は今回の潜航でパワーアップした「TPF2」の 2つの機能に加え、マニピュレーターの角度を変えられるようにしたり、「ドロシー」側にもケーブルドラムをつけたりと、さらに高性能な Mini ROV「ドロシー」として、登場します! 乞うご期待!

さぁ、いよいよ「KM-ROV」#324 潜航の始まりです!
駿河湾で深海洞窟は見つけられていませんから、通常の海底で「TPF2」の発着を行うことになりました。
水深約750mの海底に到着。海底は泥に覆われて目標物がなく、濁りや浮遊物も多いためこれまでと随分違って見えます。着底すると泥が舞ってしまうため、Cave Camの“受け渡し”は、数mの高度をとって行います。

泥の海底へ泳ぎ出す「TPF2」泥の海底へ泳ぎ出す「TPF2」

作戦としては、Cave Camを一度「KM-ROV」のマニピュレーターで持ち、それを「TPF2」が受け取る、というものです。水中でのロボット同士の機材の“手渡し”もなかなか見られる景色ではありません。

Cave Camの受け渡しCave Camの受け渡し

準備は整い、「TPF2」が Cave Camを無事受け取った!
と思った直後、そのまま泥の海底へまっさかさまに落ちていってしまいました!

Cave Camの水中重量を前方についたマニピュレーターで受けた結果、前方へ重みが偏ってしまい、「TPF2」のスラスタの垂直方向の推力が Cave Camの水中重量に負けてしまったという結果のようです。
ちなみに「ドロシー」はマニピュレーターの角度を変えることができるため、「TPF2」より Cave Camの重さを中心で支えられる設計でした。来年度は Cave Camの水中重量と「ドロシー」の垂直方向の推力、重心を再調整して挑むことになります!
やはり実際にやってみないとわからない事は多く、今回試験ができたことで、来年度につながる結果を得ることができました。

Cave Camの回収は明日「KM-ROV」が行うことになり、その後海底の観察と採集を実施しました。
この水深はユメナマコに加え、ミズテングも複数観察しました。

ミズテングとユメナマコミズテングとユメナマコ

オオグチボヤも発見!

オオグチボヤオオグチボヤ

柄がないように見えるオオグチボヤのなかまもいました。

 

柄がない? オオグチボヤ類 Dicopia sp.

ぐるぐるの蚊取り線香のようなゴカイ類の棲管もありました。

ぐるぐるのゴカイ類の棲管ぐるぐるのゴカイ類の棲管

中でも見事だったのが、この紫色のナマコ類です。

 

紫色のナマコ類
 
ワタゾコナマコのなかまでしょうか。とてもきれいな紫色で、表面の構造が特徴的でした。

さて、すでにご紹介したように、今回キャニスタ内を確認できるようになったため、特に柔らかい生物の採集がうまくできるはずです。ちょうど付着性のクシクラゲ類が複数個体付着している岩を発見。
 

付着性クシクラゲ類が複数個体岩に付着
 
このクシクラゲ類は、体の中心が紫色で、水管などの白くみえる筋が放射状に広がっています。見るからに柔らかく、採集自体が難しそうな生物ですが、今回キャニスタの中を見ながら吸うことができたので、良い力加減で吸う強さを調節、体が完全に崩れることなく採集に成功しました。
結果、キャニスタを回収してみると、無事複数個体が採集できていました。
より状態の良いものは標本用として、やや崩れてしまっていますが、飼育用にも個体をいただきました。再生することを信じて頑張ります!
 

採集されたクシクラゲ類の 1個体


本プロジェクトは、日本財団の支援を受けて笹川平和財団海洋政策研究所が実施する「オーシャンショット研究助成事業」により助成を受けたものである。
オーシャンショット研究助成事業は日本財団の助成を受けて笹川平和財団海洋政策研究所によって実施されている。

・JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)KM25-06「かいめい」/「KM-ROV」 D-ARK 航海
・新江ノ島水族館は、JAMSTECと深海生物の長期飼育技術の開発に関する共同研究をおこなっています。

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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