2025年07月30日

D-ARK 航海 2025(14)
駿河湾の潜航調査と思いもよらない調査最終日

  • 期間:2025年 7月 2日(水)〜 8月 3日(日)
  • 場所:九州・パラオ海嶺、大東島周辺海域
  • 目的:深海石灰岩洞窟における遺存種の把握とその分類学的研究
  • 担当:八巻


みなさんこんにちは! 八巻です。
航海は終盤に差し掛かり、調査日も残りわずかになりました。
台風の接近に伴う予定変更で当初の予定より調査ができる日程が減ってしまい、残るは 7月29日、30日の 2日間となりました。

7月29日は午前中に「クラムボン」#56 潜航、午後に「KM-ROV」#325 潜航の 2潜航を行いました。
「クラムボン」#56 潜航は、南伊豆南西沖水深約 930mから 880mまでの観察・採集を実施し、「KM-ROV」ではきのうと同じ、西伊豆東方沖水深約 750mから 670mまでの観察・採集を実施し、同時に「Cave Cam」を回収しました。

「クラムボン」#56潜航 では、久しぶりに見慣れた海底に戻ってきたように感じました。泥の底質に加え、相模湾でもよく見かけるイバラガニモドキやウルトラブンブクを複数個体観察したからです。

イバラガニモドキとコンニャクウオ類イバラガニモドキとコンニャクウオ類

ウルトラブンブクウルトラブンブク

イバラガニモドキにはコンニャクウオ類がついていました。二宮沖でフジコンニャクウオに出会った時のことが懐かしいです。ここ駿河湾はフジコンニャクウオの本場ですが、見えたのが一瞬でしたので、フジコンニャクウオかどうかは、何ともいえないところです。
そろそろ浮上時間が迫ってきたころ、沈木が見つかりました。

沈木沈木

やはり陸に囲まれた湾というだけあって、川から木が流れてくることも多いのでしょう。そして沈木にはなぜかいつもシンカイコシオリエビ類がついています。

沈木につかまるシンカイコシオリエビ類沈木につかまるシンカイコシオリエビ類

飼育下でも水中ドローンで採集したシンカイコシオリエビ類が、沈木に寄り添う姿が観察されています。彼らは沈木やそれに付着する生物を食べていたり、あるいは沈木から滲み出る硫化水素を利用していたり、何らかのかたちで沈木に依存しているものと思われますが、その明確な理由は分かりません。
沈木はシンカイコシオリエビだけでなく、さまざまな生物に利用されていて、沈木の表面だけでなく内部にも多くの生物が潜んでいることがしばしばありますので、沈木ごと採集することにしました。

沈木をつかんで採集沈木をつかんで採集

揚収されてみるとなかなかの長さの沈木です。

沈木をつかんだ「クラムボン」沈木をつかんだ「クラムボン」

ただ、割ってみると沈木はまだ新しい状態で、内部の生物はあまりいなそうでした。

まだ生木に近い沈木まだ生木に近い沈木

「KM-ROV」#325 潜航ではきのうと同じ西伊豆東方沖の海域に潜航、Cave Camを回収後、周囲を観察しました。

Cave Camを回収Cave Camを回収

駿河湾のこの水深帯にはユメナマコがかなりの密度で観察できます。ユメナマコの発光を確かめるために、数個体サンプリングしながら進みます。

ユメナマコをスラープガンで吸うユメナマコをスラープガンで吸う

すると、ウラナイカジカの仲間がいました!

ウラナイカジカ類ウラナイカジカ類

これはスラープガンで採集さえできれば、飼育下でも長く生きることがわかっていますので、ぜひ飼育用に採集したかったのですが、残念ながら「KM-ROV」のスラープガンのホース径より明らかに大きく、採集は断念せざるを得ませんでした。

 

ウラナイカジカ類をスラープガンで吸おうとする
 
しばらく進むと、この潜航でも沈木を発見! 午前中の「クラムボン」の沈木よりも付着物が多く、朽ちている雰囲気です。
 

沈木をサンプルボックスへ入れる
 
この潜航も沈木の採集を最後に揚収時間となりました。

沈木は回収後よく観察すると、ヒドロ虫がたくさんついていました!
 

沈木の皮に付着するヒドロ虫のポリプ
 
皮ごと回収して飼育を試みます。クラゲが出そうな形をしているように思えますので、楽しみです。

翌 7月30日は、ついに最終調査日となり、朝イチで「KM-ROV」#326 潜航を開始、水深 1,400mの湧水域を目指して潜航中の 8時半ごろ、思いもよらない形で調査終了のゴングがなってしまったのです。
みなさんご存知の通り、カムチャツカ方面を震源とする大きな地震の影響で、日本列島の太平洋岸ほぼ全域に、のちに警報となる津波注意報が発令されました。
海上では津波は大きなうねりのようなものなので、船としては安全ですが、「KM-ROV」はすぐに揚収、そのままより安全な駿河湾の沖へ移動することとなりました。
沖で津波警報の解除を待ちましたが、残念ながら解除の見込みは薄く、そのまま調査終了、相模湾へと船を向けることになりました。

台風 10号も迫っていますので、この後の予定はなかなか定まらなかったものの、研究者は翌 31日に通船で下船することになりました。
ただ、私は生き物の世話がありますので、そのまま積み下ろしの日まで船に残ることになりました。


本プロジェクトは、日本財団の支援を受けて笹川平和財団海洋政策研究所が実施する「オーシャンショット研究助成事業」により助成を受けたものである。
オーシャンショット研究助成事業は日本財団の助成を受けて笹川平和財団海洋政策研究所によって実施されている。

・JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)KM25-06「かいめい」/「KM-ROV」 D-ARK 航海
・新江ノ島水族館は、JAMSTECと深海生物の長期飼育技術の開発に関する共同研究をおこなっています。

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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