2025年11月24日

江の島沖片瀬海底谷 水中ドローン潜航調査

  • 期間:2025年 11月 24日(祝・月)
  • 場所:江の島沖片瀬海底谷(相模湾)
  • 目的:生物調査採集
  • 担当:杉村・山本・村井


江の島沖片瀬海底谷は新江ノ島水族館の沖に位置し、水深 100m 付近から 700m 付近まで、堆積物の積もった平坦な地形と、巨大な岩の張り出した崖状の地形が交互に続く海底をしています。
新江ノ島水族館では、この片瀬海底谷をメインの調査海域として水中ドローンを駆使して相模湾の生物相の調査をおこなっています。
水中ドローンの調査はドローンのカメラで海底を視認しながら調査をおこないますので、通常、水深の深い場所から浅い場所に向かって調査をおこなっていきます。

今年度 2回目の潜航調査(水中ドローン調査通算 101〜107Dive)になる、相模湾江の島沖片瀬海底谷の水深 120〜150m の生物調査をおこないました。
この調査の一部は、水族館に併設している「なぎさの体験学習館」と中継をつないだ、“水中ドローン潜航調査ライブ中継 Vol.12”も開催しました。
海上は風がほとんどなく波も穏やかでした。
海底の潮の流れは、午前中は比較的穏やかで、午後から若干の潮流を感じましたが、一日を通して水中ドローンの調査には好条件な海底の状態でした。

1回目の潜航 着底水深 151m :ライブ中継のためのテスト潜航
岩盤に堆積物の積もった海底で、所々に岩が突き出ていました。
着底後、航行を始めるとすぐに海底の岩の先端に、白い体に赤い斑点姿の“コトクラゲ”を発見しました。
コトクラゲは、海底の流れに逆らうことなく、そして流されることもなく岩肌にしっかりついていました。
海底に点在する岩の表面には、堆積物が被さり、所々にイソギンチャクやヒドロサンゴの仲間、白いカイメンの仲間が付着し、海底にはアカトラギスの姿がありました。
この後に中継イベントを控えているため、この潜航は終了、149m にて離底しました。

2回目の潜航を開始。
この潜航は、なぎさの体験学習館と中継をつないで、潜航調査のライブ中継イベントを実施しました。
159m の海底に着底。
底質は堆積物が多く泥場、そして点在している岩と海底の隙間には、この海域の常連のユメカサゴとそのすぐそばには小型のホモラの仲間(トウヨウホモラ? )。
堆積物の上には、フサカサゴの仲間にアオメエソ、アカトラギス、ヤドカリの仲間がぽつりぽつりと姿を見せています。
アオメエソは、駿河湾の底引き網などでは比較的深めの 300m から 400m あたりで漁獲されますが、片瀬海底谷では浅めの 160m 付近から見ることがあります。ですが大きさは数cm と小さめです。
水深の浅い方に向かってしばらく航行すると、海底に岩盤が露出し始め、149m 付近の岩と岩の間には、この海域の優先種であるアズマハナダイが横切り、海底には赤い体色が鮮やかなベニテグリが 2個体、そして堆積物の積もった海底にホッスガイの仲間(カイメンの仲間)が姿を見せました。
露出した岩は大きな岩へ変わり、そして崖になって水中ドローンの正面に現れました。
崖の中腹には、手のひらより少し大きいくらいのフクロウ二の仲間(強烈な毒を持っています)、崖を上がりきったその先端の水深 134m には、本日 2度目のコトクラゲに出会いました。
採集にチャレンジしましたが、あまりに崖の先端に位置しすぎて水中ドローンのホバリングが難しく断念し、更に観察へ。
すると、数分後にはなんと 3度目のコトクラゲです。
今度は、ドローンのグリッパーでうまくキャッチすることに成功、そのまま海面まで無事に上がってきました。
この潜航のようすは、ライブでなぎさの体験館の会場に中継されました。

本日 3度目の潜航。
181m の泥場に着底。
着底すると水中ドローンの LED照明に無数のアミの仲間が群がってきました。
そのまま泥の海底を航行すると、大きな海底の穴の前にアカアマダイが姿を見せ、ドローンが近づくと驚いて穴の中にすっぽり潜ってしまいました。
アカアマダイは海底に巣穴をつくると聞いていましたが、大きな魚体がすっぽり隠れてしまうほど立派な巣穴でした。
書物などで見聞きするのと、自分の目で確認するのとでは大きな違いがあり、この目で見たことは、全てリアルで嘘がありません。
実際に見ることの意味を感じた瞬間でした。
しばらくすると大きな岩が優先する海底へ変化し、フサカサゴやユメカサゴ、岩の隙間にはアズマハナダイが姿を見せ始めました。
相模湾の海底には人工物も間々見ることができます。
鉄でできていると思われる何らかの人工物の上には、大きなウミシダの仲間が巻き枝(脚のようなもの)を使ってしっかり体を固定していました。

お昼を挟んで、4回目の潜航を始めます。
水深 120m、岩場の海底でした。
航行を始めるとすぐに岩に体を固定して上方に冠部分を伸ばして、流れてくる懸濁物を摂取しようとしているトリノアシの姿がありました。
トリノアシの採集を試みて離底しました。

5回目の潜航
水深 143m、底質は岩盤と堆積物。
岩の上には所々に白いカイメンの仲間が付着し、カスリマクヒトデの姿もありました。
魚類はアカトラギス、フサカサゴが点在していました。
岩と岩の間隙を縫うようにハナギンチャクの仲間とウッカリカサゴ、その先にはカナドが海底にじっとしていました。
水深が 126m になると大きな岩の崖になり、その頂上にはまたもトリノアシが冠部を上方に向けていました。
直立不動はこのことでしょうか、とても立派でした。

6回目の潜航
水深 138m、底質は岩盤と堆積物。
しかし、航行を始めるとすぐに泥に変わり、この海域と水深では出現率の比較的高い本日 2回目のアカアマダイの姿がありました。
再び岩盤に変わり、崖に変わるとその中腹付近の岩の隙間にはテンジクハナダイが姿を見せ、水中ドローンを確認するとすぐさま岩の隙間に入り込んでじっと動かなくなりました。
この海域では何度か出会っているハナダイになります。
以前に出会ったときは、頭だけを岩の隙間に隠して尾びれだけ出してじっとしていました。
隠れているつもり…なんでしょうね。
テンジクハナダイは小型のとても美しいハナダイの仲間で個人的にもとても好きな魚です。
崖の頂上まで上がるとここにもトリノアシが冠部を海中高くに広げていました。

本日最終の 7回目の潜航。
水深 150m、底質は岩盤と堆積物。
しばらく航行すると崖に変わり、岩盤上やその隙間には、アカヒトデ、白いカイメンの仲間が点在し、殻の青い筋がきれいでトゲの長いウニの仲間を見ることができました。
そして突き出た岩盤にはトリノアシが今度は横たわるように姿を見せ、水深が浅くなるとまたもやコトクラゲが!!
採集を試みましたが、浮上中に離脱してしまいました…
再び潜航を始め、トリノアシの観察をおこない、調査時間終了時刻となったのでトリノアシを採集して、離底しました。

本日の調査は、合計 7回の潜航で水深 120〜180m の平坦な泥場から岩盤の張り出した崖の調査をおこないました。
見た目はいつもと変わらない海底でしたが、今回はコトクラゲにこれまでにないほど多く遭遇し、うち 1個体の採集に成功しました。
併せて、トリノアシにも久し振りにたくさん出会うことができました。
片瀬海底谷でのコトクラゲやトリノアシとの遭遇率は高く、特にほぼ決まった水深に生息していることが分かってきました。
懸濁物を餌料としている彼らにとっては、崖になり潮通しが良い、すみやすい環境なんですね。
今後は、片瀬海底谷の周辺の海域での調査もおこない、コトクラゲやトリノアシの生息範囲を調査していくことも検討しています。
また、相模湾のトリノアシの産卵期などについてはよく分かっていません。
今後は、相模湾のこの海域に多く見られるトリノアシの成熟状態なども採集を通じて確認していければと考えています。

今回の調査で採集したコトクラゲやトリノアシなどは、深海Ⅱの水中ドローンコーナーにて飼育・展示中です。
しかも、コトクラゲに至っては幼生を放出したためバックヤードで育成を始めています。
大きく成長しましたら、公開したいと思います。

実際に海底を見る調査は、毎回発見が多くわくわくです。
今後も引き続き水中ドローンを使って相模湾の生物を調査していきたいと思います。

深海Ⅱ-しんかい2000-

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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