みなさんこんにちは。
12月 12日に江の島を出発して翌日鹿児島県に到着し、本日 南星丸に乗船してきたのでそのようすを共有いたします。
今回の目的は、数年前に錦江湾(鹿児島湾)に沈めた鯨骨を回収し、そこにすみついた生物を回収することです。沈めたのは 2017年と 2023年で、今どんな状態で沈んでいるのかは実際に見てみないとわかりません。水中のようすを観察するのは簡単なことではありませんが、そこで活躍するのが ROV(水中ドローン)です。これまでのフィールド調査報告でも頻繁に登場しており、ついには潜航回数 100回を超えてさまざまな成果をあげています。
今回は黒い棒とフックが一体になったものが特別に装備されています。これは水中で鯨骨を回収するためのもので、カメラで鯨骨のようすを確認しながらフックで引っ掛けて回収してきます。ついでに鯨骨の周囲の環境も見てこようと思っています。
ROV(水中ドローン)きょうの天気は晴れ。きのうは風が強くて出港が危ぶまれましたが穏やかになっていて無事に出港できることになりました。
南星丸は鹿児島大学水産学部の練習船で、乗船実習のため学生や講師などが最大 16名乗船できる船です。今回は新江ノ島水族館から 2名、いおワールドかごしま水族館から 3名、鹿児島大学水産学部の先生 1名とその学生さん 10名で乗船します。私は初めて会う船なのでわくわく、楽しみからくる高揚感と使命を果たさねばというプレッシャーの 2つを同時に感じていました。
南星丸さあ出港です。
今回は鯨骨を回収するだけでなく、現場や作業のようすを新江ノ島水族館 併設のなぎさの体験学習館で上映して海底の映像情報や水中ドローンの特徴を伝える中継イベントをするのも目的のひとつです。中継は南星丸となぎさの体験学習館の遠距離で鯨骨回収作業と並行して実施しました。
南星丸の上で準備を整えながら調査場所まで行き、水中ドローンを沈めていきます。水底に到着してまず見えてきたのは海底からぽこぽこと出ている気泡、いわゆる「たぎり」です。「たぎり」は海底火山の活動で出てきた火山性のガスで硫化水素を含むため化学合成生態系の生物には欠かせない材料になっています。
さらに進んでいくと白い絨毯(バクテリアのコロニー)が見え始め、その奥にはサツマハオリムシが密集して生息していました。サツマハオリムシは硫化水素をエネルギー源とする化学合成細菌と共生して生きるゴカイの仲間です。口や腸を持たず共生細菌が作る栄養に依存するという面白い生態をもちます。今回のフィールド調査ではサツマハオリムシが重要なのでぜひ覚えてください。
実は、過去に鯨骨を沈めたのはサツマハオリムシを収集するためです。鯨骨には脂が多く、それが硫化水素を発生させます。そして、そこにサツマハオリムシが付くようになります。自然に生息しているサツマハオリムシを収集するのではなくわざわざ鯨骨を沈めて数年待つのにはいくつかの理由があります。
まずは展示しやすいということ。錦江湾のサツマハオリムシは海底の泥に埋まっていますが、鯨骨の場合は自由に鯨骨の大きさを設定できるほか骨にくっついているようすも展示できます。
それと鯨骨を沈める一番大きな理由として、自然の環境を守るためという考えがあります。自然に生息するサツマハオリムシは地球の財産です。財産はしっかり守りながらも私たちが収集するために、生まれたばかりのサツマハオリムシがすみやすい場所を新しく用意しています。
ハオリムシサイトサツマハオリムシが密集している周りを探していると、ありました。沈設された鯨骨です。これは 2023年に沈めた鯨骨で、カゴに入れて沈められています。
これを船の上まで引き揚げるのが今回のミッションです。
沈設された鯨骨近づいて、カゴにフックをかけて、おや? 持ち上がらない …。どうやらサツマハオリムシがカゴに絡みながら育ったために取れなくなっているようです。フックを引っ掛けながらぶんぶんと揺らしてみます。すると… あ、浮いた! こうなればあとはドローンのケーブルを引っ張って船の上に揚げるだけです。ただ、100 m ほどのケーブルを手動で引っ張るので腕の筋肉が悲鳴をあげます。もちろんそんな悲鳴は無視して引き続けるのですがこのツケは翌日筋肉痛となって現れます。水深 5 m くらいになると船の上からドローンを視認できます。しっかりカゴを持っています、回収成功です。
水中でフックをかけたところ
回収の瞬間 鯨骨には殻が薄くて小さなサツマハオリムシも付いていました。サツマハオリムシの成長はゆっくりだと思っていたので 2年間でこれだけたくさん付くことに驚き、水族館で飼育していく個体もしっかり成長させなければならないと強く思いました。
採集した鯨骨とサツマハオリムシ並行していた中継イベントも無事に終了し、今回はこれで大きな目的は達成しました。高揚感やプレッシャーが安堵に変わった瞬間です。
今回収集した鯨骨やサツマハオリムシは展示としてみなさんに見ていただくのはもちろんのこと、サツマハオリムシに関しては成長を見守り、記録することで自然環境下での成長率との比較や最良の飼育方法の確立を目指していきます。
乗船や収集のサポートをしていただいた鹿児島大学水産学部、いおワールドかごしま水族館、南星丸船長をはじめとする乗組員のみなさま、ありがとうございました!
浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら
どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。
打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。
浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。
どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。