2019年08月17日
トリーター:山本

カツオノエボシの最新情報

今年もこの季節がやってきましたね。夏だ! 海だ! カツオノエボシだ!(泳ぐときは気を付けてください。)
“えのすい”でも、近くの砂浜に打ち上がるたびに展示しています。最近では、適切な飼育方法がなんとなーくわかってきて、ちょっとずつですが長く飼えるようになってきました。でもその話はまた今度・・・
今回は、あるカツオノエボシについての論文のご紹介です。

それは 2019年 5月 27日に投稿された「Morphology and development of the Portuguese man of war, Physalia physalis」という論文です。
カツオノエボシの形態や成長の仕方など、現時点知られていることがとても詳しく書かれていました。著者様に感謝!
せっかく頑張って読みましたので、今回はその論文に書かれていたことで、とくに印象的だったことを紹介していこうと思います。カツオノエボシを知らない方にはかなり難しく、知っている方でもちょっと難しいかもですが、ご覧ください!

【体の構造について】

体の構造について、従来の図鑑や論文での情報とは少し違う解釈がされている箇所がありました。せっかくですので、去年私が書いた日誌(2018/05/25 カツオノエボシの魅力その1【体の構造】)で説明した構造と比較してご紹介します。
図ではそれぞれをとっても簡略して書いています。また、日本語訳がない単語に関してはそのまま英語で表記しております。





これまでは、カツオノエボシの構造は、大きく分けて 4つで
1. Pneumatophore(気泡体)浮くところ
2. Gastrozooid(栄養個虫)餌を食べて消化するところ
3. Gonozooid(生殖個虫)有性生殖をするためのところ
4. Dactyrozooid(感触体)餌を捕まえるところ
その他+α
と解釈していましたが、今回の論文では

1. Pneumatophore(気泡体)
2. Gastrozooid(栄養個虫)
3. Gonodendron(生殖枝)→A: Gonophore(生殖体)+ B: Palpon+ C: Nectophore(泳鐘)+D: Jelly polyp
4. Tentacular palpon

と説明されていました。大きな違いは、いわゆる触手の部分です。
これまで触手は「Dactylozooid(感触体)」だと思っていたのですが、「Tentacular palpon(触手を持つパルポン)」という単語が出てきました。これは、他の管クラゲには無いカツオノエボシ特有の部位であるとのことです。餌を捕まえる時に触手を使い、刺胞の産生に特化しているそうです。触手で一つ!と思っていたのですが、Palpon+触手で一セットなのですね。改めて観察してみると、確かに、、、!

また、生殖をつかさどる部分であるGonodendron(生殖枝)も、詳しく解説されていました。図ではシンプルに一つずつ書かれていますが、実際はA・B・C・Dがもっとたくさんあって、ごちゃごちゃしています。
AのGonophore(生殖体)は、群体が♂なら精子、♀なら卵が入っています。
BはPalponで、Gastrozooid(栄養個虫)から派生したものであると考えられています。消化をつかさどるアクセサリー的な個虫であると考えられており、Tentacular palponとは区別されています。
CはNectophore(泳鐘)で、有性生殖をする際、群体からGonodendronを切り離すときに役立っていると考えられています。
DはJelly polypで機能は不明だそうです。切り離されてちょっとだけ動き、有性生殖をするなんて、なんだかこの部分は「カツオノエボシのクラゲ」みたいですね。
カツオノエボシにクラゲは無いという認識でしたが、彼らにとって、Gonodendronがクラゲなのかもしれません。

ちなみに、これらの情報は、最新の情報というわけではなく、研究者の考え方によっていろいろあるみたいです。どれを支持するとかではなく、こういう情報もあるんだというご紹介ですので、それを知っていただければと思います。

【若群体の成長について】

次に、若群体の成長についてです。各成長段階の固定された標本を並べられ、どの個虫がどの部分に、何番目に作られているのかが考察されていました。
うーん、難しい。そして、昨年私たちが“えのすい”で観察できた幼生とは少し違った形をしている標本の写真が載っていました。
2018/07/19 カツオノエボシの魅力その 3【赤ちゃん生まれました!】

ただ、採集された標本を並べての考察ですので、同群体の初期成長を観察したわけではありません。やはり、われわれが見た幼群体の成長は結構貴重なものだったようです、、、!



これです↑
ただ、論文を書いて世に出したわけではないので、この話は“えのすい”で完結してしまっております。
僕も、先輩トリーターたちのように、論文を書いて、もっと生き物たちの不思議を科学的に解明していきたいなと改めて思ったのでした。

そして、私はみなさまに謝らなければならないことがあります。この分野に関して認識の違いがありました。
カツオノエボシの成長について、私はこれまで受精卵からプラヌラ幼生に成長し、そこからさらに成長して気胞体+栄養個虫を持ったものを「Protozooid幼生」だと思っていたのですが、どうやらProtozooidというのは「最初の栄養個虫」のことを指すようです。
微妙な違いのようですが、過去のトリーター日誌で間違った説明をしてしまいまして、、、すみません。正確な情報をお伝えできるようにもっともっと勉強いたします。

その他にも、さまざまな最新情報が詰め込まれている論文です。カツオノエボシが好きならば! とにかく目を通してほしい! 本当は隅から隅までご紹介したいのですが、それこそ論文くらい長くなってしまいそうなので、ここらへんにしておきます。
続きはまた、日誌や夏のあいだ おこなっているイベント「クラゲのひみつ」の後とかに! ぜひ聞きに来てくださいね!

今回参考にした論文:Morphology and development of the Portuguese man of war, Physalia physalis 著者:Catriona et al. (2019)

クラゲサイエンス

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